なぜカール・フリッツは三重の壁を作らなければならなかったのか
カール・フリッツは地鳴らしを防ぐために壁を作ったのではないか、という考察です。
地鳴らしが起きるということは壁の巨人が解き放たれることですから、地鳴らしを防ぐために壁を作ったというのはちょっとおかしい気がします。
地鳴らしを防ぎたいなら初めから壁を作らないとか、根本的な対処法を考えるべきでしょう。
しかし、壁を作った目的が地鳴らしを防ぐためなのであれば、巨人大戦が起きたことや、パラディ島に引きこもったこと、不戦の契りが生み出されたことなどと辻褄が合うのです。
それを裏付けるシナリオがあるとしたら、これまで描かれてきた物語とどのように繋がるのでしょうか?
「地鳴らし」と「三重の壁&不戦の契」の関係
こんな感じで、始祖の力がもたらす影響は物語全体を覆っています。
その中で、「地鳴らし」とカール・フリッツが築いた三重の壁&不戦の契は対になっていると考えられます。
そしてこの対になる出来事は基本的に「未来が過去を決めている」のが特徴です。
座標発動があるからダイナ巨人はベルトルトをスルーしてカルラを食べたし、記憶ツアーがあったからグリシャはレイス一家を惨殺したのです。
ダイナ巨人のベルトルトスルーもグリシャのレイス一家惨殺も、無垢の巨人の性質やグリシャの性格から考えると、そのままでは到底起き得ない状況であったと思われます。
しかし、これらは現実に起きています。
ということはそこに何か「見えない力」がはたらいているであろうと考えられ、それは未来で使われた「始祖の力」がもたらした影響だろうということです。
カール・フリッツの三重の壁もまた、これと同じパターンを踏襲しているのではないでしょうか。
説明されない三重の壁
カール・フリッツがパラディ島に引き篭もって壁を作り、「不戦の契」によって始祖を封印し戦うことを止めたせいで、大陸に取り残されたエルディア人の迫害が始まり、マーレのレベリオにも壁が作られました。
エルディア復権派が作られたことも、グリシャが壁を出て進撃の巨人を継承したことも、ダイナが無垢の巨人にされたことも、カール・フリッツがきっかけです。そして様々な出来事が繋がって「地鳴らし」発動に至ります。
という感じのことが作中で描かれている訳ですが、「不戦の契」についてはそれなりに語られており、とりあえず「始祖の真価を発揮できないもの」とわかるようになっているにも拘わらず、どうやって壁を作ったのかはっきりした説明がありません。
はっきりと説明できないということは、三重の壁は「地鳴らし」を発動する「始祖の力」がもたらす影響によって作られたのではないでしょうか?
それなりに綺麗に話が繋がらないと説得力がありませんので、どうにかつじつまを合わせられるように頑張ってみます。
壁の巨人の中の人はいなかった?
最終話で巨人の力が消滅した際、地鳴らしの壁巨人の中の人は存在しないことがわかりました。始祖エレン巨人からニョキニョキ発生した歴代知性巨人と同じ原理だったのでしょうか?
パラディ島に連れて行かれた大量のユミルの民が洗脳されて壁の巨人と化す地獄絵図を想像していたのですが…どうやらそういう話ではなかったのかもしれません。もちろん本当は中の人はいるけど描かれていないだけということも十分あり得るでしょう。
しかし、真相が藪の中であることこそが重要なポイントです。というか重要なポイントであることにします。
カール・フリッツが三重の壁を作った理由が足りない
ちなみにヴィリーの演説では壁の巨人は幾千万と言っていましたが、作中(アニメ)で明かされている壁の半径から計算すると中にいるのは約55万人です。この辺りは漫画なのでアバウトどころかガンガン盛っても良いと思います。
ヴィリー・タイバーが言うには、パラディ島の三重の壁は巨人戦後に145代目カール・フリッツが作りました。
カールは予てから平和を願っており、同族同士の争いに疲れ果て、マーレへの贖罪からパラディ島に引きこもることを決意したとのことです。
しかしエルディアが犯した罪は贖えるものではないからいつかマーレが侵略してきたらそれを受け入れる。ただし、それまでは壁の中の楽園で束の間の平和を享受することを許して欲しい、という話でした。
- 平和を願った
- 同族同士の争いに疲れ果てた
- マーレを哀れんでいた
- 束の間の楽園を築きたかった
これだけだとパラディ島へ引きこもった理由としてなら理解できますが、壁を作った理由としては不十分だと思います。
ぜひとも 壁を作らなければならなかった強制的な理由 が欲しいところです。
カール・フリッツは 地鳴らし を予見できるだけの何かを見たんじゃないでしょうか??
しかし、進撃の巨人の特性すら知らなかった王家の人間がどうやってそんなことを知るのでしょうか??
カール・フリッツが座標で見たもの
始祖の巨人を継承した王家は座標に来る
©諫山創 講談社 進撃の巨人 120話「刹那」
120話で座標に到達したジークは「おそらく始祖を継承した王家はここに来たんだろう」「始祖の力を行使する際に」と発言しています。
つまりカール・フリッツも座標に来たということです。
歴代初の始祖の巨人を継承した王がカール・フリッツ
©諫山創 講談社 進撃の巨人 86話「あの日」
ちなみに144代以前の王は座標に来ていないと思います。なぜなら彼らはユミルの民ではないからです。
122話に登場する初代フリッツ王や壁内貴族の様子を見る限り、エルディア帝国では「支配するのは非ユミルの民で巨人を継承するのは奴隷のユミルの民」というスタイルを貫いていたと想像されます。
カール・フリッツは歴史上初めて「始祖の巨人を継承した王家の血を引くユミルの民」だと考えられます。
だから座標に来ることが出来たし、記憶も繋がったはずです。そして、122話にあったような始祖ユミルが大量の超大型巨人を製作する姿を見たのでしょう。
144代以前の王はユミルの民ではないので座標の様子なんて知りようがないし、カール以前の始祖の巨人継承者は王家の血を引いていないので座標に来ることは出来なかったはずです。
カールは真実を知った初めての存在なのです。むしろそうでなければ巨人大戦のような大きな変革が起きたことの説明がつかないと思います。
始祖ユミルは何のために超大型巨人を量産していたのか
©諫山創 講談社 進撃の巨人 122話「二千年前の君から」
123話から始まる「地鳴らし」の壁巨人を思わせる描写です。
コマの割り方を見ると、エレンが「終わりだ」という前から始祖ユミルは超大型巨人を作っていたように見えます。ということはエレンのためだけに作り始めた訳ではなさそうです。
道の時間は下界とは違うようですから何とも言えませんが、この光景が意味するのは座標(道)にはエルディアの王がいざ始祖継承者に命令すればいつでも発動できる超大型巨人が大量に控えていた、ということなのではないでしょうか?
エルディアの王が事前に発注していたのか、始祖ユミルが自発的に製作して機会を伺っていたのか、それはわかりません。わかりませんが、エレンが自由に選ばせた結果、始祖ユミルは壁の超大型巨人を解放したわけですから、答えは半分出ているようなものでしょう。
始祖ユミルは巨人の力を手に入れた後、王のためにその力を使う選択をし、そのせいで娘や子孫たちが何代にも渡って犠牲になり続ける状況が生まれました。そこから解放されるにあたって、やられたほうは堪ったものではありませんが、呪われた2000年にケリをつけるにはそれ相応の儀式が必要だったと考えられます。
ジャンがマルコの死の真相を知った時、一度我慢しようとしましたが結局堪え切れず、ライナーをボッコボコにすることで気持ちの整理がつきました。規模は違えどあれと同じです。
カール・フリッツの選択
エレンは始祖ユミルに好きなようにさせました(実質一択の強引な誘導にも思えますが)。
一方、カール・フリッツは始祖を封印する選択をした、ということです。
エルディア帝国は長い間、同族同士の争いが激化するとエルディアの王が始祖の巨人の力を使って収めていたようです。具体的にどうやっていたのかはわかりませんが、争いが絶えなかったということは力でねじ伏せていたのでしょう。
ということは、いつか収拾がつかなくなったとき、エルディアの王は出荷待ちの大量の超大型巨人を使ってしまうかもしれません。もちろんそうなったら世界は終わりです。
同族同士の争いを続ける限り、エルディアの王が力で争いを沈めて頂点に君臨する限り、この危険な状態は終わりません。
この事実を突きつけられた145代目の王カール・フリッツはなんとか世界を救う方法はないかと考えたのではないでしょうか。
カール・フリッツの世界を救う施策
- 不戦の契り → 壁の巨人を封印(地鳴らし封印)
- 三重の壁と無垢の巨人 → フリッツ王家の侵略を防ぐ
- レイス王家で始祖を継承し続ける → 安全維持
これがカール・フリッツが編み出した世界を救う施策です。
- レイス王家 → 145代目カール・フリッツの子孫。ロッド、ウーリ、フリーダたち。
- フリッツ王家 → エルディアの王。大陸に残った元々の王家。ダイナの家系。
不戦の契り
©諫山創 講談社 進撃の巨人 89話「会議」
始祖の力を制限するといえば「不戦の契り」です。しかしこれだけでは足りません。
なぜなら「不戦の契り」はレイス家にしか通用せず、よその血筋の者に奪われた途端に無効になるからです。
思想の違うフリッツ王家に始祖を奪い返されてしまった場合、血迷って超大型巨人を出動させるかもしれません。
カール・フリッツはフリッツ家を裏切って始祖を奪った立場なので、当然敵は血眼になって狙ってきます。
始祖を敵から守り抜くためにはもっと強力な対策が必要です。
超大型巨人による三重の壁
©諫山創 講談社 進撃の巨人 33話「壁」
カール・フリッツはあれほど恐れた超大型巨人の大群を結局使ってしまった、ということです。
道に封印しておけるのであればそれが一番良かったのですが、フリッツ王家からの侵略を防ぐにはもうそんなことも言ってられません。
カールはフリッツ本家と距離を取るためにパラディ島に逃げ、道で出荷待ちの超大型巨人を地上に出現させ、すぐに硬質化で固めて三重の壁を作ることにしました。
楽園送りはフリッツ王家を根絶やしにするため
さらにタイバー家に協力を要請し、大陸のフリッツ王家の粛清に励んでもらいました。これが楽園送りです。フリッツ王家を根絶やしにすることに成功すれば、始祖の力を使える存在はレイス家だけになります。
三重の壁に加えて、大量の無垢の巨人が壁外を彷徨うことにより、強力な防御態勢が完成しました。壁内人類には記憶改竄を施し、自らの家名をレイスに変えてカモフラージュも完璧です。
粛清・楽園送りが順調に進めば、フリッツ王家の血筋は根絶し、いよいよカールの計画は完成されます。
カールの施策の矛盾と顛末
- 不戦の契り → 壁の巨人を封印(地鳴らし封印)
- 三重の壁と無垢の巨人 → フリッツ王家の侵略を防ぐ
- レイス王家で始祖を継承し続ける → 安全維持
カール・フリッツが巨人大戦を引き起こし、パラディ島に引き篭もって三重の壁を築いたことで、マーレに取り残されたエルディア人が迫害されレベリオに壁が出来ました。
ある日レベリオの壁の外に出た少年グリシャに目をつけたのがフリッツ王家の残党であるフクロウことエレン・クルーガーです。グリシャをエルディア復権派へ入れて一時活動を盛り上げるも、グリシャの息子ジークの告発によってメンバーは楽園送りにされることに。ダイナを始めメンバーは無垢の巨人になり、グリシャはクルーガーから進撃の巨人を継承します。
始祖奪還の使命を授り壁内に潜入したグリシャはすぐには手を出さず、呑気に任期ぎりぎりまで過ごすも、クルーガーがせっせと蹴落とした「同胞」のおかげでマーレが横槍を入れること無く13年が経過。
科学が進歩し時代が変わろうとしている中、他国を牽制する武器&資源獲得のためマーレが始祖奪還計画を実行。ライナーら戦士隊をパラディ島に送り込んだ845年のあの日、息子エレンに尻を叩かれたグリシャはついに覚悟を決め、「不戦の契」でろくに戦えないフリーダから始祖を奪いエレンへ継承。後にエレンはパラディ島内をさまよっていた王家の血を引くダイナ巨人と接触して、始祖の巨人の真価を発揮する方法を発見します。
そしていよいよ巨人の力が絶対ではなくなる日が見えてきた854年、エルディアの未来を嘆くジークは安楽死計画を実行するために獣の巨人を継承し、始祖を保有するエレンとの接触を試みるも主導権争いに敗れ、とうとう「地鳴らし」が発動してしまいました。
カールやタイバーが甘かったのか、エルディアの執念が勝ったのか。
そもそも「巨人の力を封印するために、いつか使われるかもしれない壁の巨人を用意する」というおかしな作戦を選んだのが良くなかったのでは、と思ってしまいます。
ではなぜこんなおかしな作戦を選んでしまったのでしょうか?
まるで「地鳴らし」が先に決まっていて、そのために立てられた作戦のようです。
カール・フリッツを血迷わせたのは、未来のエレンなのではないでしょうか…?
しかし、壁がなければエレンは「地鳴らし」をしようなどと考えるはずもありませんので、結局鶏卵問題になってしまいます。
©諫山創 講談社 進撃の巨人 1巻1話「二千年後の君へ」
あるいはもしかしたら、「地鳴らし」が起きた瞬間に100年前のパラディ島でカールの意思とは無関係に三重の壁が築かれ、その真相を知ってビビったカールが「地鳴らし」を防ぐために「不戦の契」を編み出したということなのかもしれません。
★★★
そういえば、あともう1人、「地鳴らし」の鍵となる男が、しかも145代目カール・フリッツと思想がそっくりな男がいました…。
©諫山創 講談社 進撃の巨人 34巻137話「巨人」
なんだか変なものを作っています。
まとめ
三重の壁は145代目カール・フリッツが地鳴らしを防ぐために作ったと考えられる。それ裏付けるシナリオがあるとしたらどんなものか。
カールは始祖の力を行使するために座標を訪れたときに始祖ユミルが超大型巨人を量産する姿を見た。
始祖ユミルが解放されるためには必要なことだが、超大型巨人の大群を出動させれば世界は終わる。だから始祖の力を封印するしか無い。
超大型巨人の出動を防ぎつつ、始祖の巨人をフリッツ王家に奪われないようにする方法を模索した結果、パラディ島へ逃避して三重の壁を作るに至った。
壁を作った後は自らに「不戦の契り」を課し、始祖の巨人の力を一部を使えないようにした。
さらに防御態勢を固めるために、大陸ではタイバー家がフリッツ王家の粛清、楽園送りを敢行。壁外を無垢の巨人で埋め尽くし侵略を困難にした。
というのは全部後付けで、実はすべて「地鳴らし」を発動するために決まったことだったのかもしれない。
下手するとカール・フリッツ自身は三重の壁を作っておらず、不戦の契を結んだだけという可能性もある。
関連
巨人大戦勃発周辺にはおそらく「進撃の巨人」も絡んでいると思うのですが、この辺りも考察すると面白そうです。