130話のエレンとヒストリアの会話の内容を考察
130話「人類の夜明け」におけるエレンとヒストリアの密会とその会話内容について考察します。
ヒストリアはエレンの地鳴らしに猛反対したものの、結局賛成することになりました。なぜ意見が変わったのでしょうか?また、賛成するにしてもなぜ子供を作ることを提案したのでしょうか?
そもそも本当に賛成しているのでしょうか??
エレンとヒストリアの会話の結果、起きたことを整理
ヒストリアはエレンに協力しています。
ヒストリアの最終的な気持ちはどうであれ、結局エレンの希望通りに地鳴らしが発動されたことが何よりの証拠です。
エレンの計画は兵団幹部やハンジらには知らされることはありませんでした。つまりヒストリアは黙っていたということです。
またヒストリアの妊娠によって巨人継承は延期となり、無事エレンとジークの接触&地鳴らし発動へたどり着きました。
もちろん、最後の最後でヒストリアの本心が明かされ、何か動きがあってエレンの地鳴らしが止められる可能性も0ではありません。
しかし少なくとも地鳴らし発動まではエレンの思惑通りであり、これはヒストリアの協力なしには実現しなかったことは間違いないでしょう。
ではヒストリアはエレンとの会話の中でどのような心境の変化があったのでしょうか??
ポイントは「世界一悪い子(超悪い子)」というキーワード(16巻66話「願い」で初登場)にあると考えられます。
なぜエレンはヒストリアに真意を話したのか?
憲兵団はお前を巨人にして島に来たジークを食わせる計画を進めている
32巻130話「人類の夜明け」 エレンのセリフ
エレンの計画は「ジークと接触して地鳴らしを発動する」ことです。しかし、黙っていては実現出来ません。だからヒストリアに計画を話したのです。
エレンが地鳴らしを発動させるため必要な「王家の血を引く巨人」はジークでなければいけないし、ヒストリアを犠牲にしたくありません。
しかしこの時点で兵団はジークの巨人をヒストリアに継承させる予定であり、ヒストリア本人もその覚悟を決めている様子です。
…私だって牛の世話だけしてたわけじゃない わかってる
争う必要も逃げる必要も無い
この島が生き残る一番堅実な方法があれば 私はそれに従う
他に方法は無かった…
32巻130話「人類の夜明け」ヒストリアのセリフ
エレンが黙っているとヒストリアは巨人にされてしまいます。しかもジークがパラディ島に到着したら、エレンも自由に動けるかどうかわからないので手遅れになる可能性が高いでしょう。
よってエレンはそれより前にヒストリアに会って事情を話し、心変わりしてもらう必要があったのです。
でも…あの時エレンが私を庇ってくれて…みんなが動いてくれたから…私はそれで十分だよ
32巻130話「人類の夜明け」ヒストリアのセリフ
あの時というのは、27巻107話「来客」でキヨミが初めてパラディ島に来た時にジークが提案する50年計画についての会議のことです。
そこでヒストリアは自分が犠牲になる意志を表明しました。しかしエレンは反対し別な方法を探るべきと主張したのです。
このときヒストリアは目に涙を溜めて震えていました。つまり、心の底から巨人の継承を受け入れている訳ではないということです。
ヒストリアを犠牲にしない方法
エレンは兼ねてからパラディ島を世界の攻撃から守るためにヒストリアが犠牲になる50年計画に反対しています。
50年計画では、まず「牽制用の地鳴らし要員( 島の生贄 )」としてヒストリアがジークを捕食し獣の巨人を継承することになります。
さらに「王家の血を引く巨人」を絶やさないようにするため、ヒストリアは13年の任期中に出来るだけたくさんの子を産まなければなりません( 島の生贄になるためだけに子を産ませ )。
そして巨人の継承はヒストリアの子がヒストリアを食べることによって行われます( 親子同士を食わせ続けるようなマネ )。
ヒストリアを犠牲にしない方法は結局誰も見つけられませんでした。エレンとて地鳴らしが最善策とは思っていないでしょう。しかしヒストリアや仲間たち、パラディ島を守るにはやるしかないと判断したのです。
他の仲間に言わなかった理由は?
エレンがハンジやアルミンらに相談しなかった理由は、まず第1に巻き込みたくない。第2に言っても反対される。最後に黙っていても地鳴らしは起こせる。という3つが絡んでいると思われます。
反対は結構厄介で、最終的にエレンが巨人を剥奪される可能性があります。危ない橋を渡る必要はないのです。
エレンがヒストリアとフロックに自分の計画を話したのは、あくまでも言わないといけない状況だったからです。
ヒストリアは50年計画のど真ん中の人物ですから、むしろエレンが真っ先にアプローチしなければいけません。
フロックはエレンとイェレナの会話を立ち聞きしていましたが、あれはイェレナの監視役がフロックがだったからであり、当然の結果です(27巻109話「導く者」)。
つまりイェレナがフロックの性格や思想を見抜いて巻き込んでいる訳です。
もしその後エレンがフロックに自分の真意を伝えなかった場合、フロックは完全にイェレナ側についてしまったり、あるいはイェレナと対立して殺されてしまう可能性がありました。そうなることが見え見えである以上、エレンはフロックに真意を話さない訳にはいきません。
イェレナはここまで計算し、フロックを引き連れてエレンと密会したのでしょう。
エレンがヒストリアに迫った選択
エレンはヒストリアに「自分はジークと接触して地鳴らしをするから、お前は憲兵団から逃げるか、争うかどっちか選べ」と迫りました。
しかし、ヒストリアは反対します。
巨人継承を回避出来るのは良いかもしれないが、それが壁外人類大虐殺のためだなんておかしい、という話です。
確かにエレンはおかしなことを言っています。壁外全員が敵ではないことはわかっている、だけどやると言うんです。
普通は賛成しないでしょう。ましてや巨人を継承する覚悟を決めているヒストリアが相手では全然説得力がありません。
そこでエレンはヒストリアを説得するために「世界一悪い子」というキーワードを使いました。
世界一悪い子とは
レイス家の礼拝堂地下でのシーンでのセリフ。
巨人を駆逐するって!?
誰がそんな面倒なことやるもんか!!
むしろ人類なんか嫌いだ!!
巨人に滅ぼされたらいいんだ!!
つまり私は人類の敵!!
わかる!?
最低最悪の超悪い子!!
16巻66話「願い」
このとき、ヒストリアは人類のために自分が巨人となってエレンを食って始祖の巨人を奪い返すという使命を放棄し、エレンを救いました。
なぜそんなことをしたのかというと、親友ユミル(104期)に言われた「お前…胸張って生きろよ」という言葉を思い出し「これ以上自分を殺さない」と決めたからです。
エレンはこの時のことを引き合いに出して、ヒストリアを「世界一悪い子」と言ったのです。
胸を張って生きるとは?
エレン…あなたを何としてでも止めないと
二度と…胸を張って生きていくことができない
32巻「人類の夜明け」 ヒストリアのセリフ
ヒストリアはこう言いますが、これは矛盾しています。
なぜならヒストリアにとっての「胸を張って生きる」とは「自分のために生きる」ことであり、「人類のために自分を犠牲にする」ことではないからです。
今回の場合「エレンを止める」ということは即ちヒストリアがジークから獣の巨人を継承する、つまり「人類のために自分を犠牲にする」ことになります。
しかもヒストリアが巨人を継承してしまうと、ヒストリアの子供も、そのまた子供も……と繋がっていき、結局犠牲は1人だけでは済みません。根本的な解決にならないし、負の連鎖が益々大きくなってしまいます。
王政編のときにしろ、今回にしろ、ヒストリアが人類のために自分を犠牲にすることは必ずしも良い結果を生むとは限りません。
答えは誰にもわからないのです。
戦わなければ勝てない
エレンやハンジは50年計画には反対しています。背負う犠牲が大き過ぎるからです。その上、上手くいく保証がどこにありません。
よくわからない計画を実行するためにヒストリアとその子孫たちが犠牲になる必要があるのでしょうか?
13年で死ぬことが確定し、子が親を食って役目を継承するサイクルが延々と繰り返される。それが世界の平和を守るために相応しい代償なのでしょうか?
王政編でヒストリアは「悪い子」になりエレンを助け、父ロッドを倒すことでレイス家が巨人を継承する負の連鎖を断ち切りました。
このとき壁内人類は、レイス家が犠牲を払いながら無抵抗のまま全滅を受け入れる姿勢から脱却し、戦って自由を勝ち取る方針に切り替えたはずなんです。
しかし、いざ外の世界を見てみたら想像以上に状況は厳しかった。
だからといって、また再び全員ではないにしても一部の人間が犠牲になる道を選ばなければならないのでしょうか?
エレン「ダメだ…もう逃げ場は無い…」
ヒストリア「じゃあ何もせずにこのままみんなで仲良く潰れるか焼け死ぬのを待つの?私達が人類の敵だから?」
リヴァイ「毎度お前にばかり…すまなく思うが エレン 好きな方を選べ」
16巻66話「願い」
王政編で礼拝堂地下が崩壊しそうな時に繰り広げられる会話です。まさにマーレ編以降のパラディ島の状況にそっくりではないでしょうか。
世界中から敵視され八方塞がりな状態でただ黙って全滅するのを待つのか、戦って自由を勝ち取るのか。
このように追い詰められた状況でも、ヒストリアは巨人を継承するべきなのでしょうか?
それで本当にヒストリアは胸を張って生きていけるのでしょうか?
こうしたことを踏まえてエレンは、
「世界一悪い子(本当のヒストリア)」はどっちを選ぶんだ?
「私は人類の敵だけど…エレンの味方」って言ってたよな?
と問い掛けている、ということではないでしょうか。
脅迫しているような感じがあるのは否めませんが、一理あると思います。
だからヒストリアは何も言い返せなくなったのです。
私が…子供を作るのはどう?
じゃあ エレン
私が…子供を作るのはどう?
32巻130話「人類の夜明け」 ヒストリアのセリフ
これが何なのかと言えば、戦う決意をしたということだと思います。
「私はエレンの味方ですよ」と全面的な協力を正式に表明してるのです。
どっちを選んでも犠牲は必ず出ます。どっちを選んでも地獄です。
ただし、今このタイミングでヒストリアがエレンに味方しなければ、今まで散々繰り返されて来たものと同じ地獄が待っているに違いありません。
だったらエレンに協力する、新しい地獄を選ぶ覚悟を決める。そういうことなんじゃないでしょうか。
「じゃあエレン」「私が…子供を作るのはどう?」と言っているヒストリアは、それより前のエレンに反対していたときとは目つきが変わっています。
これは「世界一悪い子モード」に切り替わったったということなのかもしれません。
ヒストリアによる「妊娠」の提案が意味するものとは??
エレンが「ヒストリアが妊娠すること自体」に反対している描写はありません。
エレンが反対しているのはあくまでもヒストリアが巨人継承に伴う負の連鎖の犠牲になることです。妊娠すれば何らかの形で兵団に利用されるから絶対ダメとか、望まない妊娠が云々と考えている訳ではないと思います。
そもそも女王ですから、後継者を残すことは大切な仕事であり、その責任が一般人より大きくなってしまうのはある程度仕方がないことです。仕方ないというか、これはヒストリアに限った話ではありませんし、あまり強調することでもないでしょう。
何がダメかと言えば巨人が絡むことであって、そうでない場合に関してはエレンがヒストリアを止める理由は特にないと思います。
ということを踏まえ、ヒストリアからエレンに対して「妊娠」を提案したのはどういう意味を持つのでしょうか??
エレンとジークの接触のための時間稼ぎに最も適した方法
ヒストリアはエレンに協力することを決めました。やると決めたらあとはどうするか。逃げるのか?争うのか?
どちらでもない第3の方法を選んだ、ということなのだと思います。
エレンからしてみればヒストリアが憲兵から逃げようが争おうが、真意を悟られずにジークと接触するまでの時間稼ぎが出来ればそれで良いのです(もちろんヒストリアの身の安全は絶対条件ですが)。
ただし、ヒストリアが憲兵団から逃げるにせよ争うにせよ、護衛をつけるコストや秘密の漏洩のリスクがありますし、余計な犠牲者が出るかもしれません。兵団の対立を生み、計画が失敗に終わる可能性もあります。
しかしヒストリアの妊娠であれば穏便に、かつ真意を悟られずに計画を進められる確率が高くなります。実際、兵団はああでもないこうでもないと言いながら、手遅れになるまで何も行動を起こしませんでした。
そう考えると、ヒストリアが妊娠するのは最も効率的で堅実な方法ということになるでしょう。
そして、この妊娠作戦をヒストリア自身が思いついてエレンに提案したとなれば…つまりヒストリアの協力なくしてエレンの地鳴らしは起きなかったというシナリオであれば「私が…子供を作るのはどう?」というセリフは非常に重要な意味を持つことになります。
エレンにとっては現実的ではなかったかも
エレンの立場で考えると、ヒストリアの妊娠はあまり現実的な方法とはいえないかもしれません。
なぜならエレンからヒストリアに「妊娠して下さい」とお願いするわけにもいきませんし、タイミングがコントロール出来ない、そもそも妊娠出来るかどうかもわからない、と不確定要素が多いからです。
なので、「妊娠作戦」はヒストリア本人から提案されない限りあり得ないし、提案されたとしても妊娠しなかった場合に備えて別な計画(逃がすor争う)も用意する必要があります。
憲兵と争うかここから逃げるしか…手は無い
32巻130話「人類の夜明け」エレンのセリフ
エレンがどれくらい詳細に計画を考えていたのかは謎ですが、とりあえずヒストリアと会ったあの時点では、争うか逃げるしか方法はないと思っているようです。
であれば尚更「ヒストリア妊娠作戦」はヒストリア自身が提案したことに意味がある、ということなります。
残された謎。まだ明かされていないやり取り
さらにこの妊娠作戦がヒストリア主導であるならば、もう1つ可能性が生まれます。
それは何かと言えば、ヒストリアが地鳴らしに全面的に賛成している訳ではなく、エレンに従うふりをして途中で止める方法を模索している、という可能性です。
130話の回想の内容は、エレンとヒストリアの会話の全てではないでしょう。隠されているやり取りが明かされた時、大どんでん返しがあるかもしれません。
しかもなかったらなかったで別に何も問題がないというのもまた絶妙だと思います。
兵団の崩壊
27巻108「正論」で憲兵団のローグは「イェレナがヒストリアに妊娠して巨人継承を避けるようにアドバイスし、ジークの延命に繋げた」と予想していましたが、ハズレでした。
ヒストリアにコンタクトを取ったのはイェレナではなくエレンであり、また妊娠は助言によるものではなくヒストリア自身の提案だったのです。
ヒストリアが妊娠したことでジークの巨人をヒストリアに継承させる時期が遅れた、という点だけに注目すれば些細な読み違いのように思えます。
しかし、それは大きな勘違いでした。
エレンがヒストリアに会っていた。ヒストリアがエレンに自分が妊娠することを提案していた。そして、その事実を兵団の人間は誰一人として知らなかった。
イェレナがばら撒いた脊髄液入ワインを飲みながら、ズレた推理を展開するローグの姿はとても哀れです。
始祖の巨人の力で記憶の操作
もしヒストリアがエレンを止めなかったことに耐えられなければ、エレンは始祖の巨人の力で記憶を操作してやると言っています。
「それまでお前が黙っていれば…」
これは文脈からいって、エレンの地鳴らしが終わってからやる、と受け取れます。
地鳴らしが無事終わってエレンがパラディ島に帰ってくるまでヒストリアが最後まで黙っていられたら、エレンがヒストリアの記憶の操作するということです。
地鳴らしが実行された後なので、自ずとエレンは始祖の巨人を掌握していることになります。
そして操作するヒストリアの記憶は「エレンを止めなかったことで生まれた罪悪感」に関わる部分でしょう。
つまり「エレン計画を知ることになった一連の会話の記憶」ということになると思います。
できるさ お前は あの時オレを救ってくれた 世界一悪い子なんだから
32巻「人類の夜明け」 エレンのセリフ
とはいえ、エレンはヒストリアの記憶を操作する必要はないと考えているようにも受け取れます。
父は誰?
130話時点では、あらゆる可能性が残されたままだと思います。
一番穏便なのはやはりナイル師団長が唱えるサスペンダー説ではないでしょうか。エレンの「オレの寿命はあと4年」&「仲間に長生きして幸せになってほしい」という悲愴な決意も活きてきますし。
ヒストリアはあの時点で本当にサスペンダーのことが好きだったが巨人の継承のこともあって思いを伝えるのを躊躇していた。
しかし、エレンの地鳴らし計画が立ち上がったことで、ヒストリアは巨人を継承する必要がなくなった。
それじゃあこれを機に「私が…子供を作るのはどう?」
このような流れであれば、今後もうこの話題が取り上げられなくても物語の進行に影響はないし、付け加えるエピソードも特に必要ないので非常に平和だと思います。
しかし問題なのは、サスペンダーの描写不足、ヒストリアの上目遣い、エレンの曖昧な態度等々…紛らわしい表現が多いところです。
この話題のせいで、他の面白いところに読者の関心が向かなくなるくらいならさっさと決着をつけて頂きたいなと思います。