進撃の巨人に登場する鳥と記憶の関係を考察
このページでは、進撃の巨人に登場する『鳥』がどのように『記憶』に関係するのかを、考察(推察)します。131話までのネタバレを含みます。
進撃の巨人において『鳥』は、調査兵団のマーク「自由の翼」、重要なシーンで出てくる印象的な描写、ファルコの巨人など、何かあるぞとという雰囲気が漂いまくっています。
そして物語も最終盤に差し掛かる130話で、鳥が記憶に深く関わっていると思われる描写が登場しました。エレンの未来の記憶の中の1枚「真上から見たファルコ」です。
さらにエレンが鳥そのものであるかのような描写まで登場しています。
これまでの作品の世界観を考えると、「後付感満載で実はこうでした、となる可能性は低い」と思います。きっと納得感のある回収が待っているんじゃないでしょうか。
北欧神話のフギンとムニン、ゲーム・オブ・スローンズのウォーグやグリーンサイト、そして進撃の巨人の作中の鳥の描かれ方を振り返りつつ考えます。
北欧神話と進撃の巨人
進撃の巨人は北欧神話を参考にして作られているということは作者が認めているので、様々な設定の元ネタになっているであろうことは想像に難くありません。
当然、役割や設定が完全に一致しているということはないでしょう。しかし、だからこそ様々な想像も膨みます。
フギンは「思考」、ムニンは「記憶」
調査兵団のトレードマークである「自由の翼」は、北欧神話のフギンとムニンをモチーフにしているだろうと思われます。
フギンとムニンとは、オーディンに付き添う一対のワタリガラスです。フギンは「思考」、ムニンは「記憶」を意味しており、オーディンへ様々な情報を伝えるために世界中を飛び回っています。
まさに調査兵団に相応しいですよね。
そして、「思考」と「記憶」と来れば、思い当たる節がいくつかあると思います。
鳥と記憶を共有している?
もし、作中に登場する意味深な鳥が世界中の情報を集めており、ユミルの民の道と繋がって記憶を共有しているとしたら?
あるいは、エレンやアルミンが任意の鳥を利用して視覚を借りるようなことをしていた、しかも無意識のうちにやっていたとしたら?
でも鳥ってどの鳥なんでしょうか?「任意の鳥」を指定できたりするのでしょうか?
この辺がはっきりしないと、ちょっと不自然だし都合が良過ぎる感じがします。
ゲーム・オブ・スローンズのウォーグ
アメリカの人気ドラマでゲーム・オブ・スローンズというファンタジー作品があります。
この中で面白い設定というか能力が登場します。
ウォーグ(狼潜り)……獣や人間に乗り移って遠隔操作する グリーンサイト(緑視者)……過去や未来、遠くの場所を見ることが出来る
ウォーグは、主人公の1人のブランや野人オレルが使います。使い道はなんとなくイメージ出来るんじゃないでしょうか。
グリーンサイトは、「三つ目の鴉」と呼ばれる人物が使う能力で、後にブランは「三つ目の鴉」の後継者となります。2人が出会うきっかけは、ブランの夢の中に鴉が登場したことです。「三つ目の鴉」は人間なのですが、鴉に化けてブランの夢の中に登場しブランを自分のところまで導く、という展開になります。
詳細はさておき、進撃の巨人の作者・諫山創氏はゲーム・オブ・スローンズの大ファンだそうなので、何かしら参考にしていてもおかしくはありません。当然そのままパクることはないでしょうし、使うとしても進撃の巨人の世界観に上手く馴染ませるはずです。
「過去や未来を行き来する」「獣や人間に乗り移る」「姿を変えて現れて誰かを導く」という抽象的な部分に注目し、そういう世界観もあるのだ と考えれば、進撃の巨人における 鳥の描写 も受け入れやすくなってくるのではないでしょうか。
進撃の巨人に一般の鳥はほとんど出てこない
実は、進撃の巨人には鳥がほとんど出てきません。
調査兵団のマークなどで明らかにモチーフとして扱われていることがはっきりしているのに、アニメのオープニングやエンディングでガンガン使われているのに、なぜか作中ではほとんど鳥が出てきません。
風景の一部として鳥が描かれている、ということがないのです。
巨大樹の森の木々に止まっているとか、街中だったら建物の屋根の上に鳥がいる描写がありません。あるいは誰かが壁の上に立って遠くの山を見たり、ふと空を見上げた時、その景色の中にも鳥はいません。
例外は、回想に出てくるミカサの父が捕まえた鴨らしき鳥ぐらいのものです。
土地が狭い関係で畜産が思うように出来ず肉が貴重なものとして描かれていますが、豚や牛より簡単そうな鶏を飼っているような描写はありません。
そもそもパラディ島には猿がいないくらいですから、実は空を飛ぶ鳥もいないのかもしれません。作中で空を飛んでいる生き物といえば、それこそ調査兵団の兵士しか出てこないのです。
以下で、130話より前で原作とアニメに登場する鳥のシーンを挙げていきます。
原作(マンガ)
1話(1巻)「二千年後の君へ」エレンが風見鶏に気を取られる
©諫山創 講談社 進撃の巨人 1巻1話「二千年後の君へ」
超大型巨人を見るために壁のそばへ急いで走っている最中、エレンは街の道具屋の看板の風見鶏に目を奪われます。この何気ない描写に2コマも使われているところに注目です。
エレンが風見鶏に気を取られている間、アルミンはどんどん先に行ってしまいます。超大型巨人そっちのけでエレンが夢中になる理由ってなんでしょうか??
1話の原稿は当初会議に通った内容を作者が独断で大幅に修正、というかほぼ全部書き直してしまっているそうです。
つまり、作者はその内容にかなり気を使って第1話を仕上げたということです。
そして、進撃の巨人には無駄なコマが少なく、1コマ1コマにきちんと意味が込められていることで有名です。
ということは、風見鶏はそれだけ重要な描写だと考えられます。後で何か使おうとして仕込んでいるのではないでしょうか。
鳥籠の中に囚われていた屈辱を
1話の冒頭と最後で「その日人類は思い出したヤツらに支配されていた恐怖を…鳥籠の中に囚われていた屈辱を…」という言葉が出てきます。
なんでわざわざ鳥籠なのか。
鳥は大空を飛び回る自由の象徴でもあるけれど、一旦鳥籠の中に入れられてしまったときに感じるであろう不自由さは他にはない落差、感覚があります。
そういう喩えとして鳥籠と言っているのだと考えればそれなりに納得感がありますが、130話に出てきた進撃の巨人の姿を見ると実は比喩ではなく結構そのままである可能性も高いと思います。
36話(9巻)「ただいま」
©諫山創 講談社 進撃の巨人 9巻36話「ただいま」
サシャの故郷でカヤ母が襲われる場面
76話(19巻)「雷槍」
©諫山創 講談社 進撃の巨人 19巻76話「雷槍」
シガンシナの決戦における調査兵団の秘密兵器・雷槍の実演お披露目会の回想シーン。
木に止まっていた鳥たちが雷槍の爆発に驚いて飛び立っていきます。
88話(22巻)「進撃の巨人」
©諫山創 講談社 進撃の巨人 22巻88話「進撃の巨人」
クルーガーの巨人を見て驚いたグリシャがその直後、上空の鳥の群れに目をやっています。
「誰かが見ていた」というやつなのかもしれません。
91話(23巻)「海の向こう側」
©諫山創 講談社 進撃の巨人 23巻91話「海の向こう側」
マーレ編一発目。
マーレ軍と中東連合の戦争が繰り広げられるスラバ要塞の上空を飛んでいる鳥です。
その鳥を見てファルコがここは危ないから逃げろと話し掛けています。
このシーンを鳥目線で切り取れば、130話に登場するエレンが見た未来の記憶の断片に重なります。
120話(30巻)「刹那」
©諫山創 講談社 進撃の巨人 30巻120話「刹那」
3ページ目(2-3ページ目の見開き)で13羽の鳥がシガンシナ区上空を飛んでいます。
©諫山創 講談社 進撃の巨人 30巻120話「刹那」
更に、11ページ目の上の方(10-11ページ目の見開き)で、エレン(歴代継承者含む)の記憶の断片の中の1つとしてこの鳥群が登場します。
首を飛ばされ回転しているエレンの視線の先に、上空の鳥がいたのかもしれません。
122話(30巻)「二千年前の君から」
©諫山創 講談社 進撃の巨人 30巻122話「二千年前の君から」
始祖ユミルが謎の生物に触れて始めて巨人化したシーン。大量の鳥が飛び立っています。
一見、雷槍のときと同じく爆発に驚いた鳥たちが飛び立っていると解釈できそうです。
しかし、この鳥たちが「始祖ユミルの巨人と同時に生まれた」としたら。しかもこの鳥たちは始祖の巨人の分身のようなもので、視野を共有するために生まれて一斉に世界に放たれたのだとしたら。
伏線として使われるならここが一番しっくりくるような気がします。
アニメ
鳥があまり出てこないと書きましたが、アニメでは割と目立つというか、意識して強調されているような印象があります。
1話(1期)「二千年後の君へ -シガンシナ陥落①-」冒頭
00:00~
©諫山創 講談社/「進撃の巨人」製作委員会 Season1 第1話「二千年後の君へ」
初っ端が2羽の鳥です。直後、大きく開いたエレンの瞳に2羽の鳥が映ります。その後、アルミンの声でナレーション。
普通に考えて、エレンの視線は壁のヘリに見える超大型巨人の手や立ち込める煙に向かっているはずです。
00:07~
©諫山創 講談社/「進撃の巨人」製作委員会 Season1 第1話「二千年後の君へ」
しかし、エレンの瞳に反射する鳥の描写がわざわざ差し込まれれ、「エレンは鳥を見ている」ことが強調されています。
エレンが何かを受信している、のかもしれません。
1話(1期)「二千年後の君へ -シガンシナ陥落①-」エレンが目覚めたとき
03:55~
©諫山創 講談社/「進撃の巨人」製作委員会 Season1 第1話「二千年後の君へ」
エレンが夢(記憶)から覚めた時、2羽の鳥がバサバサッと飛び立ちます。
冒頭の鳥と同じかどうかは不明。
エレンは大声を挙げた訳でもないのに鳥が飛び立ったのはちょっと不自然なので何かの暗示かもしれません。
17話(1期) 「女型の巨人 ―第57回壁外調査①―」
05:27~
©諫山創 講談社/「進撃の巨人」製作委員会 Season1 第17話「女型の巨人」
初めての壁外調査のためアルミンがドキドキしながら馬を走らせているシーン。
アルミンは木から飛び立った2羽の鳥にビビります。
1話のエレンが目覚めたときに飛び立つ鳥と良く似た描写です。
25話(1期)「壁 -ストヘス区急襲③-」アルミンとジャンの会話中
20:40~
©諫山創 講談社/「進撃の巨人」製作委員会 Season1 第25話「壁」
女型の巨人を捕獲後、アルミンとジャンが回廊を歩きながら話しているシーン。
目の前を舞った鳥の羽根に反応するアルミンが壁に方に目をやると、2羽の鳥が壁を越えて消えていきます。この鳥はアニメ1話に登場するものと同じかもしれません。
アルミンは、巨人を人類に立ちはだかる壁に喩えて「簡単には超えられない」と言っているように聞こえます。
もしこのときも2羽の鳥が、自身が見た景色を記憶として蓄積し、道へ送信していたとしたら。
33話(2期) 「追う者」
18:00~
©諫山創 講談社/「進撃の巨人」製作委員会 Season2 第33話「追う者」
ハンネス、ミカサ、アルミンの3人で、いつも遠くに行ってしまうエレンについて話しているとき。
1羽の鳥が壁外方面(南・エレンやライナーがいる方向)へ飛び立っていきます。
3人の会話の通り、いつも遠くに飛んでいくエレンのことを表現していると思われます。
38話(3期Part1)「狼煙」冒頭
00:00~
©諫山創 講談社/「進撃の巨人」製作委員会 Season3 Part1 第38話「狼煙」
3期1話の冒頭は1期1話と同様に2羽の鳥からエレンの瞳という流れで始まります。
エレンが砂浜に立って海を眺めているシーンです。
51話(3期Part2)「雷槍」
18:21~
©諫山創 講談社/「進撃の巨人」製作委員会 Season3 Part2 第51話「雷槍」
原作と同様、雷槍の実演お披露目会でのシーン。
59話(3期Part2)「壁の向こう側」
16:15~
©諫山創 講談社/「進撃の巨人」製作委員会 Season3 Part2 第59話「壁の向こう側」
壁外調査に出た調査兵団。アルミンが影に気づき空を見上げると鳥の群れが飛んでいる。
60話(FinalPart1)「海の向こう側」
00:00~
©諫山創 講談社/「進撃の巨人」製作委員会 Final Season 第60話「海の向こう側」
冒頭。ファルコが手を上げて鳥に逃げろと言う。
まるで目の前にいるかのようなどアップのカットから上空遠方にいるカットに切り替わる不思議な流れ。
70話(FinalPart1)「偽り者」
12:14~
©諫山創 講談社/「進撃の巨人」製作委員会 Final Season 第70話「偽り者」
アニメオリジナルで5羽の鳥が追加。
ミカサの回想。ルイーゼに敬礼された時にエレンが人拐いをめった刺しにするシーン。窓の外を5羽の鳥が飛んでいるのが見えます。
数に意味があるのかどうかは不明ですが、この場面に関連する死者はミカサの両親2人と人拐い3人で計5人です。
12:30~
©諫山創 講談社/「進撃の巨人」製作委員会 Final Season 第70話「偽り者」
イェレナが拘束されている部屋の窓の外に小鳥。その後、小鳥が飛び立って行き、それを眺めているイェレナの様子までじっくり描かれています。
自由に飛び回る鳥と閉じ込められているイェレナの対比、あるいはその鳥が飛び立つことはイェレナが後々解放されることを暗示しているのかもしれません。
結局、鳥は何者なのか
ではこの意味ありげな鳥たち、130、131話でエレンそのものかのように振る舞う鳥、ファルコが逃げろと声を掛けた鳥、アニメでエレンやアルミンが見ていた鳥は一体何なのでしょうか。
それは我々が知っている鳥ではない、特殊な生き物なのかもしれません。
つまり進撃の巨人には北欧神話のフギンとムギンのような 特別な鳥しか出てきていない 。そして、その「特別な鳥」は、始祖ユミルが巨人の力を手に入れた2000年前のあの瞬間に生まれた、と考えることが出来るのではないでしょうか。
©諫山創 進撃の巨人 講談社 30巻122話「二千年前の君から」
進撃の巨人に出てくる鳥は、2000年前に生まれた始祖ユミルと視野や記憶を共有する者(とその子孫)しかいない。もしこの通りであれば、エレンや始祖ユミルが任意の鳥を選んで能力を付与していた、というような都合の良い展開を避けられます。何しろ2000年前から決まっていた既定路線なのですから。
全てが知性巨人並に異質な存在。だからスーパーな能力を持っていたり、巨人と視野を共有していたりしても全然不思議じゃないのです。
自由の翼のマーク
調査兵団のマークは明らかに鳥の羽根です。そしてそのモチーフはフギンとムギンだと考えられる。
「自由の翼」とか言っておいて、その元となっているはずの鳥が作中に全然出てこない…。これってどういうことなのでしょうか??
考えられるのは、鳥が伝説の生物であるということ。あるいは、忘れているということかもしれません。
なんとなく認識にあるような、ないような。壁内人類の巨人に対しての認識がそんな感じだったので、ありえなくはないと思います。
壁内の人々は巨人をほとんど見たことがありませんでした。無垢の巨人はともかく、超大型や鎧の巨人は全くの初見だったはずです。にも拘わらず、元々その存在を認識していたかのような雰囲気でした。
そう考えると、調査兵団のトレードマーク「自由の翼」は、竜をモチーフにしているドラゴンズみたいな感じではないでしょうか。実際に見たことはないんだけど、知ってるっちゃ知ってる。もしかしたらいるかもしれない、ぐらいには思っているみたいな感じです。
自分の分身のような存在である鳥を無意識下で親しみを持って好んでいる。そして調査兵団のトレードマークにした、ということであればそれほど無理やりに感じません。
そしてこのような感覚は、記憶を司る鳥にも関連してきます。
視野と記憶を司る鳥
エレンやアルミンはなんとなく鳥に「何かある」ことをわかっているようです。
幼い頃から無意識のうちに鳥と視野や記憶を共有していた…ということなのではないでしょうか。
エレンは「未来の記憶」の蓋が開いたことで徐々にそれがどういうことなのか理解していったのでしょう。アルミンも131話で気づいたような素振りを見せています。
まとめ
北欧神話のフギンとムギン、ゲーム・オブ・スローンズのウォーグやグリーンサイト、そして進撃の巨人作中での鳥の扱われ方。
これらを総合して考えると、鳥がエレンと視野を共有していたり、記憶を司っていたりすることを無理なく受け入れられるのではないでしょうか。
130話の記憶の断片の一部も「鳥が見ていた」で済まされます。そして鳥が見たものは記憶として道に繋がるのでエレンが見てもおかしくはない。
視野を共有しているとなれば、地鳴らしの進路を決めるときに鳥が案内役を果たしていても不思議ではありません。