なぜヴィリー・タイバーは演説で事実を公表したのか

ヴィリー・タイバーはなぜわざわざ自分たちが今まで嘘をついていたことを明かしたのでしょうか?

この演説の主な目的は世界の国々の憎しみの矛先をマーレからパラディ島に移すことです※1。

そのために、理屈と感情の2つの側面から攻めています。

理屈。パラディ島を攻撃する正当性を訴える

演説で展開される論理は「明日、地球を滅亡させるほどの超巨大隕石が降って来るとわかっていたら、国同士で戦争している場合ではありませんよね?力を合わせて隕石衝突を避けるべきでしょう?」というものです。

しかし、前半部分(お水休憩まで)で話している内容だと説得力に欠けます。

なぜなら「100年大丈夫だったのだから、明日も大丈夫だろう」と思わせる余地があるからです。

そこで後半部分(事実が明かされる部分)の出番です。

「100年大丈夫だったのは平和思想のカール・フリッツのおかげ。そんなカールから始祖の巨人を奪ったのだからエレン・イェーガーは危険なやつに間違いない※2。放っておけば確実に地鳴らしは起きる。」

これなら聴衆は納得してくれるでしょう。「今このタイミングで」世界が団結してパラディ島を攻めるべき理由が出来たのです。

この展開を作るためには、巨人大戦を終わらせたのは平和思想のカール・フリッツのおかげだったという事実を明かさない訳にはいきません。

そのためにヴィリーは恥を偲んで事実を公表した、ということです。

さらに「地鳴らし」は世界の全てを踏み潰すものだからあなたの国も例外ではないのだと説明して当事者意識を持ってもらい、国同士で争っている場合ではないことを強調しています。

これで晴れてパラディ島へ宣戦布告する準備が整いました。

※1 「地鳴らし」を起こさないようにしたいのはもちろんだと思いますが、ヴィリーが想定しているゴールはマーレを守り、立て直すための態勢を整えることだと思われます。

※2 正確には始祖を奪ったのはグリシャです。要は「奪ったのは誰であれ、始祖の巨人の持ち主が平和思想のカールの家系から変わったということは島全体の思想も真逆で凶暴になったに違いない」と人々が信じるだろうということです。

感情。哀れなエルディア人

演説の後半、ヴィリーは巨人大戦終結の経緯について、本当の救世主は145代目カール・フリッツであること、タイバー家はカールと手を組んでマーレにエルディアを売ったことを明かします。

結果、タイバー家はエルディア人であるにも拘わらず迫害とは無縁の待遇を手に入れ、さらに世界から尊敬される存在になりました。

ヴィリーはそれを「ありもしない名誉を貪るコソ泥」と卑下しています。

レベリオ収容区のエルディア人はタイバー家の策略によってハメられた被害者とし、自身の過ちを正直に告白。誠実さをアピールすることでタイバー家は大戦終結のためとはいえ同胞を売った罪の意識に苛まされる悲劇の一族であるかのように感じさせています。

さらに、そもそもこの世界の危機はエルディア人が存在するせいだとすることで悲壮感を補強。自分の生まれを呪っているし根絶を望んでいる、しかし死にたくない、生きたいと願う。哀れなエルディア人の悲痛な訴えにヴィリーのお友達や各国の首脳は涙を流して感動しています。

「強大な敵を前にすれば一つになれるはず」

聴衆は熱狂していますが、我らが主人公はかつてその考えを欠伸が出ると一蹴していました。

哀れなエルディア人のそんなセリフで世界が一致団結してパラディ島に襲いかかる。なんとも皮肉な展開です。

そして、ヴィリーは世界が恐れる敵勢力に殺されることで問答無用の被害者となり世界中から同情を買うことに成功しました。

前半部分・世界が信じている歴史(嘘)

エルディア帝国はかつての世界の支配者です。巨人の力で他民族から文化や歴史を奪い続けました。

巨人大戦はエルディア帝国の知性巨人保有する8つの家同士の争いが激化したもの。原因は自分たちが強すぎて敵がいなくなったから。タイバー家は8つの家のうちの1つです。

マーレの英雄ヘーロスはこの状況をチャンスと見てタイバー家と協力。7つの家を同士討ちによって自滅させ、最終的にエルディア帝国の支配者フリッツ王をも倒してパラディ島に追いやりました。

エルディア帝国に支配されていた国々はこれでめでたく解放されることになります。よってへーロスとタイバー家は世界の救世主として尊敬を集めることにりました。

しかしフリッツ王は今でも力を持っており、世界を踏み潰せるだけの幾千万の巨人が控えており、いつ反撃してくるかわからないので非常に危険な存在です。

なので、マーレは常にパラディ島を警戒し、ときには戦士(ライナーら)や調査船を送り込むものの度々返り討ちにあっています。この調子ではいつかまたフリッツ王が本格的に暴れ出して世界の国々へ攻撃を始めるかもしれません。

これがパラディ島のエルディア人(ユミルの民)が「島の悪魔」と呼ばれ、忌み嫌われている主な原因です。

ちなみに、巨人大戦後の100年間、再び覇権を握ったマーレはエルディア帝国と同じように巨人の力で世界を支配してるので他国から憎まれています。結局人類は同じようなことを繰り返しているように見えますが、現状他の国は戦力不足なのでどうすることもできません。

後半部分・巨人大戦の顛末(事実)

実はこうでした、という話。タイバー家は自分たちに都合の良いように嘘をついていたということです。

巨人大戦を終わらせたのはへーロスとタイバー家ではなく、当時のエルディア帝国の王・145代目カール・フリッツでした。

カール・フリッツは平和主義者で同族同士の争いに嫌気がさしており、特にエルディア帝国からひどい扱いをされていたマーレに心を痛めていたようです。

そこでカールはタイバー家と手を組み、マーレ人のへ―ロスを英雄として活躍させて巨人大戦を終わらせました。

7つの家を同士討ちにさせたところまでは上のストーリーと同じです。しかし、その後が違います。

カールは自ら進んでパラディ島に退いたのです。さらに代々平和思想を受け継ぐために「不戦の契り」を生み出して、始祖の巨人の力を自ら封印(完全には使えないようにした)しました。

つまりカールの子孫が始祖の巨人を継承し続ける限り、パラディ島勢力は反撃してくることはありえないということです。

これを知らされた人々は「今までパラディ島にビビってたのは何だったの?」という反応になります。

しかし、実は最近パラディ島内で反乱が起き、「始祖の巨人」はエレン・イェーガーに奪われてしまいました。エレンは平和思想に歯向かう危険な存在です。いよいよ本当の危機が訪れたのです。

まとめ部分(100話)・宣戦布告

なぜタイバー家が嘘をついていたことを、ヴィリーが自ら公表したのかといえば、今が本当の世界の危機だと察したからです。

具体的にどのような危機なのでしょうか。

パラディ島にはマリア・ローゼ・シーナという3つの壁があり、それは幾千万もの超大型巨人で出来ています。

この巨人が一度動き出してしまえば現在の兵器ではどうすることもできません。世界中のありとあらゆる都市・文明・生物はまるごと踏み潰されてしまいます。それが「地鳴らし」です。

本来、カール・フリッツの子孫が始祖の巨人を継承していれば「不戦の契り」によって「地鳴らし」は発動されないはずでした。しかし、始祖の巨人がエレン・イェーガーに手に渡ってしまっている今は非常に危険な状態なってしまいました。

世界を危機から救うには今しかないことを強調しつつ協力を呼びかけ、宣戦布告します。

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