第106話「義勇兵」
概要
アルミンによる回想。初めて海を見たあの日拾った貝殻を手に、彼はレベリオ収容区襲撃の3年前に初めてマーレの調査船に乗った義勇兵がパラディ島に上陸してからのことを思い出していた。
始祖奪還計画に失敗したマーレ軍は、その後のパラディ島の実態を調査すべく度々兵士を派遣していたが、その全てが消息を絶っていた。島では一体何が起こっていたのか。
パラディ島に近づくマーレ軍の調査船を軽々と持ち上げ陸上に放り投げる巨人のエレン。
恐怖に怯えるマーレ兵を不自然な笑顔で出迎えた調査兵団団長ハンジは、先に捕らえていたと思われる1人の捕虜・ニコロを人質に交渉を始める。ニコロとは既に仲良しであるとし、自分たちは敵意がないことをアピール。
しかし、ニコロには全くその気がなく、自分に構わずパラディ島の悪魔を撃ってしまえと叫ぶ。マーレの隊長が発泡しようとしたそのとき、船上の1人の兵士が隊長の頭を撃ち抜いた。彼女の名はイェレナ。
この船のメンバーは普通のマーレ兵とは違うらしい。ハンジに交渉を申し出るイェレナに戸惑う調査兵団の面々。彼らの目的いったい何なのか。
彼女たちの正体は、ジークの要求をパラディ島に伝え、協力するために派遣された反マーレ派の義勇兵だった。
元はマーレに故郷を奪われ兵士として徴用された身分であり、恨みを持って抗う気概を持ちつつも実行に移す力は持っていなかった。しかし、そこにジークが現れたことで結束し、今回のパラディ島上陸に至ったということらしい。
イェレナによるとマーレ兵の内訳は陸軍が一師団あたり2万人で構成され、総員50師団で計100万人、海軍は21隻の戦艦からなる3つの艦隊を有する。さらに航空兵器も開発中。
ハンジの疑問は、それだけの兵力を持つ超大国が、シガンシナ区の最終決戦以後1年間まともに攻めてこなかったのはなぜかということ。
理由は2つ。1つはパラディ島の壁外をうろつく「無垢の巨人」の存在。最新鋭の兵器を持ってしても巨人を駆逐することは未だ困難で、上陸の妨げになっている。無垢の巨人はマーレがエルディア人を壁の中に幽閉するための政策によって生み出されたものだったが、結果的にパラディ島をマーレの進軍から守ることにもなっていた。その無垢の巨人を調査兵団がすべて駆逐していたことは、イェレナにとっては驚くべき事実であり、パートナーとして期待以上と感じているようだ。
もう1つは現在マーレが複数の国と戦争状態に入っており、パラディ島どころではないということ。そしてその原因の一端はパラディ島にもある。調査兵団が「女型の巨人」「超大型巨人」をマーレから奪い、さらに「獣の巨人」「鎧の巨人」を追い払った。マーレは敵が多い国のため、主力兵器が奪われ弱体化した今がチャンスと見て諸外国が団結して戦争を仕掛けてきたという経緯があった。
そして、イェレナら義勇兵の最終的な目的はエルディア人の解放。その実現ためにジークはパラディ島に対して要求があるという。それは、ジークの寿命が残されているうちに「始祖の巨人」を有する腹違いの弟エレンに引き合わせること、である。
そのための交換条件として、「パラディ島の安全の保証」「武器を始めとする最新技術の提供」「パラディ島にとっての友好国との橋渡し」「マーレに対する情報工作等の支援」を提示してきた。
ハンジが兵団に持ち帰って会議で報告したところ、反応は散々なものであった。
パラディ島の兵団幹部からすれば、そのような話は到底受け入れ難いものである。なぜならジークが「獣の巨人」だから。獣の巨人は、ラガコ村の住民を巨人に変え、壁内を恐怖に陥れ、調査兵団を壊滅寸前まで殺戮し追い込んだ張本人である。そんなやつの言うことが聞けるか、という話。
ザックレー総統も意見は同じようである。なぜなら彼らの目的は終始一貫して変わらず「始祖の巨人」の奪還であるからだ。前回は力ずくで奪えなかったから今度は単にやり方を変えてきただけではないかと疑っている。この段階でお互いが信用し合うのは無理があるのかもしれない。
唯一ピクシス司令は理解を示し、ハンジに話を続けさせる。
ジークには、エルディア人の問題を一挙に解決する秘策があるという。その秘策に必要なのが、「始祖の巨人」と「王家の血を引く巨人」の2つ。この2つが揃えば世界は救われる。しかし、その「秘策」を明かすことができるのは条件が揃ってからだという。
やはりパラディ島幹部の反応は悪い。ジークは兵団をなめている。なぜ、そんな一方的な交渉を飲む必要があるのか。秘策がなんなのか先に明かすべきだろう。
しかし、ここでエレンが立ち上がった。ジークの秘策は本当であるという。エレンが「始祖の巨人」の力を発動したのは、無垢の巨人と化した「王家の血を引くダイナ・フリッツ」と接触したときだからである。
エレンの予測では、ジークは「不戦の契り」を出し抜く術を解明している。それはつまりエルディア人の希望「地鳴らし」の発動条件を解明したことと同義である。
エレンは以前から「始祖の巨人を力を発動するには王家の血筋が必要である」ことは理解していた。しかし、そのことが兵団に知れるとヒストリアが犠牲になると思ってずっと黙っていた。それが今回、ジークを使うことで地鳴らしを発動できるチャンスが巡ってきたために、打ち明けることにしたのである。
ジークの秘策が「地鳴らし」であると決まれば、兵団も要求を受け入れる余地はあるといえる。しかし、あくまでこれはエレンが語った予測であり、確信には至らない。そして兵団は決断することなくうやむやなまま時間だけが過ぎていくことになる。
兵団は義勇兵の存在も疎ましく思っており、早く処刑すべきと考えている。しかしそれはできない。なぜならマーレの調査船からパラディ島を守るには義勇兵の無線通信技術が必須だから。パラディ島に用意された選択肢はそんなに多くはないのである。
イェレナら義勇兵がパラディ島に上陸して以来、調査兵団はマーレの調査船が来るたびに兵士を捕虜にしていった。
アルミンはそんな日々を楽しかったと振り返る。海の向こうの人たちが敵だけではないことを知り、世界の複雑さを知り、知的探究心をくすぐられた。
肌の色が違うオニャンコポンとの出会い、マーレの捕虜と協力して港の工事を進めるにまで至ったこと、ニコロの作る未知の料理…。
アルミンは「地鳴らし」による脅しではなく、話し合いよる解決の道を模索できないかと考え始めるようになる。
ただし、それには膨大な時間が必要であり、彼らにそこまでの時間は用意されていない。ジークの寿命のこともありエレンは焦りを隠さないが、アルミンをはじめパラディ島の面々はどこかのんびりしており、この頃から少しずつ認識に差ができ始めていた。
結晶化して動かないアニに話しかけるアルミン。
自分はエレンのことを誰よりも理解しているつもりでいた。しかし、もうわからない。
レベリオ収容区襲撃の知らせを受けたとき、調査兵団にはエレンを止める術はなかった。エレンは1人でもやるつもりであり、もし仮に見放してマーレにエレンを奪われたらパラディ島は終わる。どちらにせよ最悪の選択。
そして超大型巨人となって軍港を破壊し、民間人も軍人も問わず大勢殺した。しかし、やらなければ、軍港が健在だったら逆に自分たちが報復を受けることになる。やるしかなかった。
パラディ島内ではレベリオ収容区襲撃の結果が「戦勝」と報じられていた。
リヴァイはジークの見張りとして馬車で移動中。リヴァイは祖父母を引き合いに出してジークを脅す。「秘策」がはっきりしない以上、まだ信用するわけにはいかない。
牢屋に入れられたガビとファルコ。この2人はパラディ島の真実を知ることはあるのだろうか。
ミカサはサシャの墓の元に座り「勝てなきゃ死ぬ…勝てば…生きる」とつぶやく。一方地下牢の中のエレンは、ミカサに呼応するように「戦わなければ勝てない」「戦え、戦え」と鏡に向かって自分を鼓舞していた。
この回で張られていた伏線
ベルトルトの記憶
エレンがアルミンに「ベルトルトの記憶は何か見たか?」と聞く
時間
アルミンやミカサは時間をかければ良いと思っている。エレンは時間を稼がなければいけないと思っている。
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この回で回収された伏線
戦え戦え
エレンのセリフ「戦え戦え」
2巻6話「少女が見た世界」
未来のエレンが鏡に向かって言っていた。トロスト区攻防戦の段階では15歳エレンが9歳エレンの言葉を思い出しているかのように見えるが、実は19歳エレン→9歳エレンという因果だった?
囚われるエレンの気持ち
地下牢に拘束されていたときのエレンの気持ち
5巻19話「まだ目を見れない」
巨人になる未知のバケモノに対して周囲の人間がどんな反応をするか、エレンは肌で感じた。マーレ編以降、エルディア人差別に対する危機感がエレンと兵団とで差があるのはこれが原因か。
ペチン・ビリビリ・叫びの力
エレンがカルラを食べた巨人にペチンとパンチした時、ライナーたちにビリビリ。何が起きた?
12巻50話「叫び」
これがライナーの言う「座標の力」。エレンは巨人をコントロールした。原因はエレンが始祖の巨人を宿しており、王家の血を引く巨人(カルラを食べた巨人の正体はダイナ・フリッツ)と接触したこと。
壁の外には自由が――
フェイが犬に食われているときの記憶映像
22巻90話「壁の向こう側へ」
多分クルーガーの記憶。エレンは壁の外には当初思い描いていたような自由がある訳ではないと知ってしまった。以後、アルミンらとのすれ違い徐々に大きくなっていく。
トロスト区襲撃から1年
海に行ったのはトロスト区襲撃から1年後。つまり1年間、外から敵はやって来なかったということ。
22巻90話「壁の向こう側へ」
マーレは他国と戦争していたのでパラディ島にかまっている暇がなかった
島に消えた調査船団
3年間で駆逐艦を含む32隻が島に消えた。エレンたちが海に到達した後の3年間。パラディ島はどうやって対処していた?消えたのはなぜ?
23巻93話「闇夜の列車」
調査船にはジークが送り込んだ反マーレ派義勇兵が乗り込んでおり、パラディ島の兵団と交流し技術提供、軍港や鉄道整備など様々な協力をしていた。
僕らの未来
皆と…エレンを回収できなければ僕らに未来はありません
26巻104話「勝者」
マーレ軍幹部殲滅、軍港破壊、ジークの誘拐を成功させなければパラディ島はあっという間に報復を受けて滅ぶ。
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謎
2発目の座標発動はなぜ起きた?
ダイナ巨人は無垢の巨人たちに食べられてしまったのに、ライナーたちに巨人を向かわせられたのはなぜ?
その時点ではまだダイナ巨人が完全に絶命していなかったから。
小ネタ・擬音
オニャンポコン
サシャがオニャン“コポ”ンを「オニャン“ポコ”ン」と呼んでいる
肌の色の話に紛れて目立たないところにそっと置かれたボケ
単行本、別冊マガジン掲載時の情報
タイトル | 第106話「義勇兵」Brave Volunteers |
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公開 | 別冊少年マガジン:2018年7月号 発売日:2018年6月9日(土) |
コミックス | 発売日:2018年8月9日(木) |
サブタイトル「義勇兵」の意味
ジークがパラディ島に送り込んだ反マーレ派義勇兵。イェレナやオニャンコポンのこと。