第97話「手から手へ」

概要

ライナーの回想。ウォール・マリアを破壊し壁内の潜入に成功したライナーたちは調査を続け壁の王の実態を掴む。さらに壁の中央に近づくため、彼らは訓練兵に入団することを決めた。

アニは昼間は訓練、夜は潜入調査を続け、当時から真の王レイス家と結託していたケニー・アッカーマンに遭遇し捕まりかける。これ以上の捜査はリスクが大きいと感じ、これまでに得た情報を手にマーレへ帰ることを提案。

しかしライナーは始祖奪還作戦の続行を譲らず、ウォール・ローゼ破壊~シガンシナ区での戦いへと突き進んでいくことになる。

一方、現在のマーレ。ガビの鎧の巨人継承が近づき焦るファルコは、先日助けた片足の負傷兵に声をかけられる。

戦士隊本部に訪れたヴィリー・タイバーはマガト隊長と会談。マーレとタイバー家の関係が明らかになる。ヴィリーはレベリオ収容区の「祭事」で何を語るのか。

この回で張られていた伏線

女の子か?

なぜエレンがファルコの恋心に気づけた?

進み続けた者にしかわからない

エレンの覚悟

手紙

ファルコが負傷兵の代わりに投函していた手紙

ヴィリーの思惑

元帥ではなくマガトに会った理由とは?

戦槌の巨人の継承者

タイバー家一族が描かれているが誰が継承者かはわからない

電話するジーク

ジークは誰と電話をしている?

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この回で回収された伏線

調査兵団が不在である理由

伏線

実践経験豊富な調査兵団が“たまたま”壁外調査へ出ていた。本当にたまたまなのか?

1巻4話「初陣」

回収

ライナーたちはあえて調査兵団がいない日を狙って襲撃していた。

ベルトルトの寝相

伏線

ジャンがベルトルトを説得するために話した訓練兵時代の思い出話

12巻48話「誰か」

回収

48話ではセリフのみだったが、97話で実際の様子が描かれている。おそらくモチーフはタロットカードの「吊るされた男 The hanged Man」

ユミルを巨人化させた兵士

伏線

ユミルを巨人化させた兵士の制服

22巻89話「会議」

回収

タイバー家の近衛兵の制服と酷似している。ユミルがマーレに居た頃はタイバー家が主導で楽園送りをしていたことを示唆している?

ライナーの心の闇

伏線

ガビら戦士候補生を見て、自身の少年時代を重ねてしまう

23巻93話「闇夜の列車」

回収

姿を重ねた4人のうちベルトルトとマルセルは死亡、アニは消息不明…つまりライナーは相当病んでいる。

真っ暗な俺達の未来

伏線?

ライナーは自分たちの未来が暗いと思っているらしい。

23巻93話「闇夜の列車」

回収

ライナーは自分たちを絶対正義とは思っていない。精神的にも参っている、と後から読むと感じる。

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小ネタ・擬音

ジャンボ

擬音

ジャンボ → jumbo 大きなもの、巨漢、巨獣

内容

ケニーから逃走中のアニが下水道を歩く音。巨人だけにジャンボ的な…。また「死に急ぎ野郎」に続き、ジャン(ジャン坊)との繋がりを感じさせる。

あじひじき

擬音

あじいいいい ひじきいいいい → 鯵 ヒジキ

内容

ヴィリーの子どもたちの奇声

所感・考察

ライナー、ベルトルト、アニ。たった3人の潜入の日々

前半はライナーたちの潜入の回想です。中学生ぐらいの子供が3人だけで5年間も敵国に潜入してるなんて、尋常ではないですね。

ウォール・マリア破壊以降はおとなしく調査していた3人ですが、行き詰まりを感じてついに動き初めます。

アニがケニー・アッカーマンと遭遇

訓練兵時代、アニは王都に潜入した際に切り裂きケニー(ケニー・アッカーマン)に遭遇しています。

この2人に絡みがあったのは少々意外ですが、真の王家を探ろうとすれば自ずとぶち当たる存在ということなのでしょう。アニも「他の王政幹部とは違う」と感じていたようです。

結果的にこのときはケニーのほうが上手でアニは命からがら逃げ切り、潜入調査を諦めるきっかけとなりました。

アニは昼間は訓練、夜は探偵と相当ハードな日々を送っていたようです。そりゃあ常時暗い顔になるし、訓練もサボりたくなるでしょう。

しびれを切らしウォール・ローゼ破壊へ

潜入から5年も経っているのに進展はなく、訓練兵入団直前から大きな変化はありません。

疲弊して限界を超えそうなアニは、これまでに得た情報を持ってマーレに帰ろうと提案しますが、ライナーは反論。顎の巨人を失ったことを考えるとまだ不十分だと考えているようです。

結局ウォール・ローゼを破壊して始祖の巨人を炙り出す作戦に踏み切ることになります。3年前にアニがやろうとしていたことです…。

ライナーの作戦

決行は解散式の翌日。

調査兵団が壁外調査で出払って兵力が手薄な日にトロスト区のウォール・ローゼを破壊する。

人手不足だから訓練兵も駆り出される。壁内は混乱するだろうから、姿を消してもバレない。仮に死んだと思われても、死体が出てこないことを不審に思うやつは誰もいない。

その後は難民にまぎれて王都に潜入。または、成績上位10位以内に入れそうなら憲兵団となって王の近くで行動する。

そして、第1巻3話「解散式の夜」へと繋がっていきます。

ライナーの苦悩

おもむろに銃弾のコマが差し込まれ、回想と共に装填が進み、回想が終わるとライナーが銃口を咥えて自殺しようとするコマに繋がる、印象的な演出です。

訓練兵時代、思うように立体機動装置を使いこなせず泣きながら悔しがるエレンは「このままじゃ何も成し遂げられない、どうやったらお前みたいになれるんだ」と、ライナーに愚痴をこぼします。

志は立派だけれど、身体がついてこない落ちこぼれ。ライナーはそんなエレンを戦士候補生時代の自分と重ね合わせ、手を取って励まします。

ウォール・ローゼ破壊からトロスト区攻防、エレンの巨人化、マルコ殺害、ソニー&ビーン殺害、シガンシナ区での決戦…戦士のライナー…兵士のライナー…

パラディ島での思い出が走馬灯のように流れます。

戦士としての自分と兵士としての自分が交互に流れ、最後は、巨人を駆逐したいというエレンを励ます自分…。

トロスト区防衛戦でエレンが巨人化した時、ライナーの驚きは相当なものだったでしょう。長年探し求めていたものが、まさかエレンだったとは。

そのエレンにアニは捕まり、ベルトルトは殺され、自分だけが生き残っている。精神がすり減るとはまさにこのこと。任期(寿命)が迫って気持ちも弱っていたのかも知れません。

そんなライナーを思い留まらせたのはファルコでした。ガビの鎧の巨人継承が確実視される中、訓練で思うような結果が出ず焦りを隠せません。思い悩むファルコを見て、ライナーは自分を奮い立たせます。

ファルコと負傷兵

悩みながらトボトボ歩いていたファルコはふと病院が目に入り中へ。すると片足ロン毛の負傷兵に声をかけられます。94話でファルコが助けた、腕章を逆につけていたちょっと怪しい男です。

彼は家族と顔を合わせづらいため、嘘をついて心的外傷ということにして病院に留まっていると明かします。

同じ候補生に優秀な奴がいるから自分は戦士になれそうにないと弱音を吐くファルコに、彼は「それはよかった。君はいい奴だから長生きしてくれるなら嬉しい」と言います。

一瞬言葉を失うファルコ。戦争で片足を失った人間に言われては何も返せないでしょう。

ファルコは「そいつを戦士にさせたくない」と絞り出すと、負傷兵はその優秀な候補生が女の子であることを見抜きます。

「オレは何もできないまま、終わるんだ」と嘆くファルコはまるで訓練兵時代のエレンのようです。

どこかで聞いたセリフを語り始める負傷兵

心も体も蝕まれ、徹底的に自由は奪われ、自分自身をも失う。こんなことになるなんて知っていれば、誰も戦場になんか行かないだろう。

でも…皆「何か」に背中を押されて地獄に足を突っ込むんだ。

大抵その「何か」は自分の意志じゃない。他人や環境に強制されて仕方なくだ。

ただし、自分で自分の背中を押した奴の見る地獄は別だ。

その地獄の先にある何かを見ている。それは希望かもしれないし、さらなる地獄かもしれない。

それはわからない。進み続けた者にしか…わからない。

おもむろに語り出したのは、リヴァイ兵士長さながらの訓示、悔いなき選択。負傷兵とは思えない力のこもった瞳。まるで主人公のような輝き。

何かに導かれたように目を見開くファルコ。

手から手へ渡される手紙

彼はクルーガーと名乗り、自分の無事を伝える家族宛の手紙の投函をファルコに依頼。収容区内では中身を確認されるため仮病がバレる、だから収容区の外にあるポストに投函してほしいと言います。

素直に受け止めてしまう純粋なファルコ。

負傷兵の名言に感化され、吹っ切れた表情でポストへ走るファルコ。

ああ、きっと何かある。この手紙。

手紙の本当の宛先は?

負傷兵がエレンであるという前提の元で予想すると、手紙の宛先はジークか一緒に潜伏しているパラディ島の仲間であろうと思われます。

ジーク説。なぜなら、ファルコがポストへ向かうコマの1つ前はジークが電話をしている姿だからです。

このコマは、ヴィリーとマガトが握手をしようとしているコマとファルコのコマに挟まれていており、唐突な感じがあります。どっちに係っているのかといえば、おそらくファルコのほうかなと。

今の舞台はエレンたちが海を見てから3年後ですから、その間に何が起きていても不思議ではありません。

仲間説。エレンの他にもマーレに潜伏している調査兵団の誰かが別な場所で待機しているのでしょう。パラディ島には手紙を送れませんから、マーレにいると考えるのが自然です。

ヴィリー・タイバーの狙いとは?

タイバー家の当主ヴィリー・タイバーがマーレ軍の戦士隊本部に訪れ、マガト隊長が対応します。

本部の主が不在のタイミングでの来訪。何か狙いがあるようです。

しかもそれはおそらくヴィリーが命じたこと。マガトもそれに気づいています。

何を伝えに来たのでしょうか??

演説の内容の大枠は、95話でジークが語っていたように、「パラディ島のエルディア人を悪者にし、マーレのエルディア人が倒すシナリオを用意して、諸外国のマーレ憎しの感情を逸らす」という感じだと思います。

それを踏まえ、今回ヴィリーはわざわざマーレ軍の上層部抜きでマガト隊長と密会しているということはプラスαがあるということです。

マーレ国の現状を憂うマガト隊長

マガト隊長は現在のマーレの体制に不満を持っており、徴兵制を復活させようとしているようです。

マーレはエルディア人を駒に使って戦争しているので国民の当事者意識が低い。戦争の怖さ、痛みを知らないのです。

そのためこのまま訳も分からず突き進んで自壊することは目に見えており、はっきり言ってもう手遅れ。

タイバー家はマーレ国の実権を握っている

マーレ国はタイバー家の権限下にあり、そのタイバー家が代々マーレを野放しにしたせいで今のような危機的状況を招いてしまった。

だからヴィリーはタイバー家の当主として責任を感じています。

ヴィリー本人が「戦槌の巨人」を継承しているのかどうかは定かではありませんが、継承者が記憶を見て一族の間で共有しているのでしょう。

ヴィリーの秘策?

ではその責任をどうやって果たすのか。

ヴィリーは祭事で「世界に全てを明かすつもり」だそうです。それにすべての望みを懸けると。

これまでも語られているように、近代兵器の進歩により巨人の存在価値は落ちてきています。

諸外国に恨みを買っているマーレは強国でいられなくなった途端、あっという間に没落する恐れがあります。加えてパラディ島からも不穏な動きがある。

ジークが語っていた「物語」だけでは不十分であり、ヴィリーの「すべてを明かす」がないと苦しいということなのだと思います。

マガトがへーロス??

100年前、人間でありながら大地の悪魔を撃ち破り世界を救ったマーレの誇る英雄へ―ロス。

ヴィリーは「マーレには再びヘ―ロスが必要なのだ」といってマガトに手を差し出しています。

ということはマガトがへーロス、世界を救う重要な役割を担うということなのでしょうか。

マーレの実権を握るタイバー家の当主が、現上層部に不満を持つマガト隊長と手を組んだ(実際に握手したかはわかりませんが)。今後のマーレはこの2人を中心に展開していくことが予想されます。

そうなるとライナーら知性巨人や戦士候補生の立場はどうなっていくのでしょう。

ジークは誰と電話していた?

唐突に現れたジークのコマ。いったい誰と電話していたのでしょうか。

  • 負傷兵(エレン)の手紙との関係
  • ヴィリーとマガトの会話を盗聴していた

この時点で答えは不明としか言いようがありませんが、出揃っている材料で考えられるのは上のようなものかと思います。

エレンとの関係。エレンは電話できる状況じゃありませんからチームというか誰か他に連絡係みたいなのがいるんじゃないでしょうか。

盗聴。ジークはタイバー家を恨んでいる可能性があります。95話でポルコが嫌悪感を顕にしていました。ジークは諭しながらも「気持ちはわかるが」と言っています。

単行本、別冊マガジン掲載時の情報

タイトル

第97話「手から手へ」

From One Hand to Another
公開
別冊少年マガジン:2017年10月号
発売日:2017年9月8日()
コミックス
発売日:2017年12月8日()

サブタイトル「手から手へ」の意味

ライナーからエレン、エレンからファルコへと繋がる「進み続ける気持ち」。ファルコの手に託されたエレンの手紙。ヴィリー・タイバーからマガトは手を取り合いマーレ再建を目指して動き始めた。

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