第95話「嘘つき」
概要
誰がなんのためにどんな嘘をついているのかを考えながら読むと非常に味わい深い回。
本部へ招集がかかったマーレの戦士たち。
ガビはライナーの異変に気がついて心配している様子。ライナーとしては自身の経験も踏まえるとガビに本当のことが言いたくても言えない複雑な状況。
始祖奪還計画は戦槌の巨人を保有するタイバー家から協力を得られることが決まり、いよいよ本格的に作戦が動き出す模様。知性巨人たちの会議を盗聴するマーレ軍の狙いとは一体何なのか。
ライナーは戦士候補生の訓練の様子を眺めながら、自身がパラディ島に潜入を始めた頃を思い出していた。第1話へ繋がっていくであろう重要な物語がいよいよ明かされる。
この回で張られていた伏線
この部屋にはいない
部屋にいるのは戦士隊だけだが、盗聴器があって軍の幹部が会話を聞いている
ジークのメガネ
さすがピークちゃん2回、タイバー家が祖国マーレを憂いている、レベリオで祭事
女型の巨人の特性
女型の評価「何でもできる汎用性が強みだ。」機動力(顎)、持続力(車力)、硬質化(鎧、戦鎚)、巨人の呼び寄せ(獣?王家?)と9つの巨人の特性を満遍なく使いこなす。
獣の巨人の投擲技術
他よりは多少デカいってだけの巨人がまさか…投擲技術でここまで恐ろしい兵器になっちまうとは
マガトの本音
4人の子供に始祖奪還計画を託す軍の方針に疑問を抱いている
ライナー…すまない
なぜマルセルはライナーに謝るのか
全員…帰ってこい
マガトが始祖奪還に向かう4人にかけた言葉
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この回で回収された伏線
満月の夜
壁を登って振り返る「獣の巨人」のコマに満月が描かれている
9巻38話「ウトガルド城」
マーレ軍がジーク由来巨人の特性を利用するため満月を狙って攻勢を仕掛けていたことを示唆。95話のマガトのセリフ「マーレ軍は望月の日 ここに停泊する」
ライナーの過去
仲間を巨人に食われた、という過去。
10巻39話「兵士」
104期ユミルは無垢の巨人として壁外を彷徨っているとき、壁内に向かうライナーらに遭遇し仲間のマルセルを食った。
ライナーの故郷
故郷に帰ることに拘っている理由
10巻39話「兵士」
任務を果たして故郷に凱旋すれば英雄になれる、と信じているから。また、彼らにはそれしか生き残る道がない。
ライナー&ベルトルトが壁を壊した理由
ライナーとベルトルトが巨人なのはわかった。ではなぜ壁を壊した?
10巻42話「戦士」
マーレ軍は壁の王が反撃してこないことを知っていた。まずは壁を破壊し混乱に乗じて潜入し、壁の王に近づく段取りだった。
覚悟
戦士候補生に選ばれるには「成績だけ」では足りない「覚悟」が必要
23巻91話「海の向こう側」
成績で劣るライナーがマーレへの強い忠誠心を示し鎧の巨人の継承者に選ばれたことを示唆している。
ライナー…すまない
なぜマルセルはライナーに謝るのか
24巻95話「嘘つき」
マルセルは弟を守るためにライナーが鎧を継承するように軍に印象操作していたから
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謎
なぜ子供4人で行かせた?
いくら巨人の力があるとはいえ引率の大人がいないのは不自然
マーレ上層部にエルディア復権派がおり、作戦を失敗させようとした?単なる無能?
なぜ獣と車力が残った?
作戦成功確率を上げるならむしろ獣と車力は必須であるはず
マーレ上層部にエルディア復権派がおり、作戦を失敗させようとした?単なる無能?
マルセルの印象操作
軍は12歳のマルセルの印象操作をまともに受け止めるだろうか?
マーレ軍にしてみればポルコはマルセルの裏切りを防ぐ人質にもなるし、さらに顎の後継者として適任である。
過去回と重ねられている描写
マルセルとユミルの八百長
マルセルはライナー&ポルコ、ユミルはクリスタ(ヒストリア)で八百長を仕掛けた
ユミルがクリスタ(ヒストリア)を10位以内にしようとしたのはマルセルから顎の巨人を継承した影響?
9巻37話「南西へ」
小ネタ・擬音
ふぁみちき
ふぁみちき → ファミチキ。コンビニ・ファミリーマートのフライドチキン
ポルコのあくび
ライナーの鎧適正
まぁ…我慢強いブラウンが合っている
諫山ギャグ。ネームを見ると「まぁ」が後から付け足されたことがわかる。
ライナーの嘘
ライナーはパラディ島の実態を理解しており、彼らは悪魔なんかではないと知っています。エレンたちの前で巨人化するときには相当悩んでいる様子が伺えましたし。
でも、そのことを隠してとぼけています。
ガビに本当ことを話せば彼女が苦しむと思っているからでしょう。敵国の殺さなければならない相手に同情しても良いことはありません。
軍人としてのガビにはパラディ島の真実は話せない。しかし、可愛い従妹としてのガビには真実を知ってもらいたい気持ちがあるのではないでしょうか。
血の繋がりは記憶の継承に強く影響する?
…血の繋がりは
「9つの巨人の」記憶の継承に強く影響するって巨人学会の人が言ってたよね?
血が近い人だと記憶の継承も深くなるという意味でしょう。
ガビとライナーはいとこ同士ですから、非常に近い存在です。もしガビが鎧の巨人を継承したら、ライナーの記憶もかなり鮮明に受け継がれると予想されます。
ライナーが秘密にしている記憶、パラディ島でエレンたちと仲良くやっていた記憶をガビが見れるはずです。
が、それはそれで状況によっては地獄となり得ます。これから殺さなければならない相手のことを深く知るのは精神的に悪影響を及ぼしてしまう可能性が高いからです。
あるいは、ライナーのように多重人格になってしまうかもしれません。
ジークの嘘
マーレの思想調査
ジークは戦士長室に知性巨人のメンバーだけを集めて、昨今の自分たちを取り巻く状況と今後の始祖奪還作戦へ向けた段取りの説明をします。
しかしこれは、軍の思想調査も兼ねています。ジークの部屋の蓄音機が電話につながっており、別室で隊長らが会話の内容をチェックしているのです。
ジークはこれをわかっているので、ポルコにマーレ軍の人はいないのか聞かれて「この部屋にはいない」と答えました。ピークとライナーはすぐ察知したようで、気を遣って話をしています。パラディ島に行った経験があるので作戦前に思想調査があることを知っているのでしょう。
何も知らないポルコはマーレがタイバー家を担ぐことへ不満を漏らしてします。一旦はジークに諭されますが、それでも聞かずに話し続けるので、最後はライナーに発言を遮られました。
絶妙なチームプレーのおかげで、軍からは問題なしの判定。マガト隊長はジークが余計なことを言ったと思っているようですが。
タイバー家のパラディ島制圧宣言の計画
この軍の作戦伝達の場で、ジークはマーレとエルディア人の現状やタイバー家について色々と説明してくれます。
ジークが語るエルディア人を取り巻く状況
- マーレは巨人(エルディア人)の力で他国を黙らせてきた
- 戦争兵器の進歩により、巨人の力が通用しなくなる時代はすぐそこまで来ている
- 巨人の戦術的価値が失われれば、マーレは弱くなってしまう
- 世界はエルディア人を憎み、人権は必要ないと考えている
- エルディア人が生き残るためにはマーレが強い国であり続ける必要がある
エルディア人が生き残る方法は?
始祖の巨人とパラディ島の資源をマーレの手中に納め、マーレ国力を安定させる。
そして、世界を脅かすパラディ島の脅威をジーク達エルディア人の手で解決する。
本当にそれだけでいいの?
ピークはそれだけでは不十分では?と言います。
なぜなら、始祖を奪還してパラディ島の脅威を排除したところで、エルディア人に対する世界の憎悪は収まらないほどすでに悪化しているからです。
だから、ストーリーが必要だ
世界のエルディア人に対する憎悪を抑えるには、物語が必要だとジークは言います。
パラディ島がいかに脅威なのかを世界に知らしめ、その上で脅威を排除することでエルディア人はある種ヒーローになる。
そのためには語り手が必要。「誰が言うか」が重要だということです。
マーレやエルディア人の自分たちで勝手にやってアピールしたところで、世界の怒りは収まらない。そこでタイバー家が出てくるわけです。
タイバー家とは?
- 「戦槌の巨人」を管理している
- 100年前の巨人大戦でエルディア帝国のフリッツ王に反乱を起こした最初の貴族家
- 名誉マーレ人として政治にも戦争にも鑑賞しない立場
タイバー家が語り手としてふさわしい理由
- タイバー家は一度も巨人の力を敵国に向けたことがない
- 巨人大戦でフリッツ王を退けた、つまり世界を救った救世主なので諸外国に顔が利く
巨人の力で他国を支配し黙らせてきた嫌われ者のマーレとは真逆の特徴を持っています。
そんなタイバー家が「始祖奪還およびパラディ島の脅威排除の物語」を世界に発信すれば皆が耳を傾けてくれる、ということになります。
ポルコが抱いてしまう素朴な感情
タイバー家は「戦槌の巨人」を持っているのにその力を国を守るために使わない。
他のエルディア人が収容区で暮らしているのに自分たちは広い土地の広い屋敷で優雅に暮らしている。
そんなやつらが今更表に出てきて英雄気取りなんて虫が良すぎるだろう。
845年・始祖奪還計画の真相
ライナーの回想、845年の始祖奪還計画の出発前の様子。
彼らはパラディ島に乗り込んくる前から既に実践の場を経験していました。
鎧と女型が先行して仕掛け、顎が敵の兵器を破壊、獣が遠方から投擲、車力がベルトルトを運んで最後は超大型の爆風で一掃。
見事な連携プレーであっという間に敵を葬ってしまいました。上官が思わず「島の悪魔に同情する」と漏らすほどの破壊力。歴代の戦士と比べてもかなり優秀なようです。
心配するマガト隊長
マガト隊長は4人の子供に始祖奪還計画を託すのは正気ではないと心配おり、見送りのときも「全員帰ってこい」と優しい表情で言葉をかけています。
同僚はその子供が国を1つ破壊して見せたんだから大丈夫だろうと楽観的な態度です。
いくら軍人とはいえ10代前半の中学生ぐらいの子供が4人、ちょっと年上のジークもいるのにわざわざあの4人が選ばれたのは不可解です。ただ単にマーレがパラディ島のことを甘く見ていたのでしょうか。
いったいこの正気ではない判断は誰がどのような理由で下したのか。謎が残ります。
ライナーの夢
ライナーが描いていた夢は「マーレ人になって両親と3人で暮らしたい」というささやかなものでした。
そのために死物狂いで努力して戦士になったのに、残念ながら小さな夢は打ち砕かれてしまいます。
ライナーの父
始祖奪還計画出発前のパレードの最中。ライナーは観衆の中で涙を流して喜ぶ母を見てもらい泣き。その時ふと見覚えのある男性の姿が目に映り、後日彼の元を訪ねます。
兵舎の厨房で働く彼はライナーの父でした。名誉マーレ人になったから一緒に暮らそうと持ち掛けますが、父は思いもよらぬ反応を見せます。ライナーの出自が明らかになったら自分の一家は縛り首になる、お前ら悪魔の親子から逃げ切ってやると罵倒してきたのです。
歓喜から一転、失意のどん底でパラディ島へ出発することになったライナー。船の目の前まで来て「そうか、もう出発の日か」って相当重症です。
なぜこんなことになってしまったのでしょうか。
ライナーの母カリナが抱くエルディア人への憎悪
カリナはパラディ島のエルディア人に対して異常な憎悪を見せています。夕食に同席している親戚や他の収容区のエルディア人に比べても、際立っています。
「私達を置き去りにして島に逃げた奴らに制裁を与えなくてはならない、私達を見捨てた奴らに」と繰り返し、直後、回想シーンに移ると「私達は見捨てられたんだ」と、かなり強調されています。
これは島のエルディア人と、ライナーの父を重ねて表現しているのだと思われます。
マーレ人に捨てられたカリナ
想像でしかありませんが、おそらくライナーの父にとってカリナは遊びみたいなものだったのではないでしょうか。悲しいですが。そうでなければ父の「復讐」という言葉は出てこないと思います。
カリナは男性に捨てられた惨めな自分を慰めるために、島に逃げたエルディア人を悪者にしているわけです。
捨てられたのは自分がエルディア人だから。エルディア人だからといって忌み嫌われるのは島に逃げたエルディア人と一緒にされているせい。自分は島のエルディア人とは違って善良なエルディア人なのに。
善良なエルディア人というのはマーレに忠誠を尽くすエルディア人。ああ自分もマーレ人だったら……。
当の自分もエルディア人なのですが、パラディ島のエルディア人を悪魔とし、マーレに忠誠を尽くす自分は善良なエルディア人として区別し正当化することで、なんとか精神の安定を保っているのでしょう。
父のことをまだ幼いライナーに説明していますが、あのくらいの子に話す内容としてはちょっと行き過ぎではないでしょうか。子供の作り方を聞かれてまごついたミカサの両親とはえらい違いです。
カリナの叶わぬ夢
「マーレ人に生まれていれば…」と泣きながらつぶやく母を見て、ライナーはマーレ人になるために戦士を志すようになります。
そして母もまたその夢を一緒に見ています。我が子の寿命が縮まることを知りながら。
カリナはたとえ自分たちが名誉マーレ人になったとしても家族一緒に暮らすことは叶わないと理解していたはずです。
だからライナーの戦士継承が決まってた後も何も行動しなかった。もしその気があったならば、ライナーより先に父に会いに行っていたはずです。
カリナはひたすら現実から目を背け続けます。ライナーがパラディ島に出発するときも、カリナは「父さんもお前の成功を祈っている」とライナーに嘘をつきました。ライナーもまた、父に会いに行ったことを母に黙っています。
叶わない夢を見て、ライナーを犠牲にし、パラディ島のエルディア人を恨み続けている。なんて哀れな人生でしょうか。しかし当時のカリナからすれば、ライナー父に捨てられたことはそれくらい悲惨な出来事だったのでしょう。
ライナーとカリナの距離感
94話「壁の中の少年」で、マーレの兵士たちが収容区に帰ってきたとき、他の家族は抱き合って喜んでいるのに、ライナーと母カリナはそのような愛情表現が見られません。
ジークでさえ祖母と熱い抱擁を交わしているため、ライナー親子は余計に冷淡に映ります。
ガビの発言で明らかになりますが、カリナはライナーがパラディ島に行って以降、人が変わったようだと感じているようです。それもあってお互い距離を取っているのかもしれません。
95話を読むと、そもそもパラディ島出発前の時点でライナーは母のおかしさに気づいており、2人のギクシャクは始まっていたことがわかります。
マルセルの嘘
パラディ島に上陸後の夜、焚き火を囲みながらマルセルがライナーの鎧の巨人継承の真実を語ります。
マルセルは弟のポルコを守りたかったために、軍に印象操作をしていたのです。
泣きながら謝るマルセルに対して、なぜ彼が謝るのか理解できないライナー。
純粋過ぎるライナー
ライナーだけが、戦士となって巨人の力を持つことに前向き過ぎです。
それもこれも幼い頃に誓った「マーレ人になって家族と一緒に暮らす」という夢のせいなのかもしれません。
巨人になれば寿命は13年になるし、作戦によっていつ死ぬかもわかりません。名誉マーレ人といっても夢見るような高待遇という訳でもない。
ましてやマルセルにしてみればガリアード家には1人巨人がいるんですから、わざわざ弟を巨人にする必要もありません。
出来ることなら巨人になんてなりたくないのが、当時のエルディア人であっても普通の感覚なのだと思います。ベルトルトやアニもおそらく「やむを得ず」という感じだったのでは。
マルセルに謝罪されたときだけではなく、94話でベルトルトに「13年しかないけどいいの?」と聞かれたときも、キョトンとしています。
純粋過ぎて泣けてきます。
なぜユミルに襲われて逃げたのか
そして翌日、104期ユミル巨人が突然現れ、マルセルがライナーを庇って食われてしまいます。
残された3人は巨人化して応戦することもなく、走って逃走。
彼らがまだ幼いということもあってパニックになったのでしょうか。
あるいは、巨人化するにはそれなりの間、心の準備ようなものがないと難しいのかもしれません。熟練度が低いとなおさら、とっさに意志を持って自傷するのは大変そうです。
俺は―― 「鎧の巨人」を祖国マーレに託された選ばれし戦士
島の悪魔を成敗し 皆を救う 英雄になるんだ
単行本、別冊マガジン掲載時の情報
タイトル | 第95話「嘘つき」Liar |
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公開 | 別冊少年マガジン:2017年8月号 発売日:2017年7月7日(金) |
コミックス | 発売日:2017年12月8日(金) |
サブタイトル「嘘つき」の意味
家族やガビに嘘をつくライナー。戦士隊に対して盗聴器で思想調査をするマーレ軍。それを知っていて話を合わせる戦士隊。更に裏がありそうなジーク。ライナーに父のことを隠し続ける母カリナ。弟を守るために軍に嘘をついていたマルセル。