第94話「壁の中の少年」
概要
中東連合との戦争を勝利で終え、レベリオに帰ってきたマーレ軍の戦士たちだったが街の人々からは冷たい視線が注がれる。
彼らが向かった先は壁に囲まれたエルディア人の収容区であった。
ファルコはエルディア人を戦争から開放したいと考えており、ライナーもまた同じ考えを持っているのではないかと感じ始める。しかし、誰よりもマーレへの忠誠心の強いのがライナーであるため、ファルコは確信を持つには至らない。
つかの間の休息を家族団欒で過ごす戦士たち。ガビは戦場での武勇伝を誇らしげに話し、家族も称賛を惜しまない。
寝室で独り物思いに耽るライナー。出生の秘密や目的が戦士候補生時代の回想と共に明らかになる。
この回で張られていた伏線
マガトの気持ち
収容区に帰るエルディア兵と家族の再会を見つめるマガト
腕章が逆の男
ファルコが助けた腕章が逆の男
豚の末裔
マガトがエルディア人を豚の末裔と呼んでいる
アニの価値観
何気なく虫を踏み潰すアニ
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この回で回収された伏線
ライナーの「待って」
「待って」とは?
19巻76話「雷槍」
落ちこぼれだった戦士候補生時代の口癖
待って
ライナーのセリフ「待って」
23巻93話「闇夜の列車」
落ちこぼれ時代の口癖
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過去回と重ねられている描写
決定権
ベルトルト「継承権を与えるのはポルコじゃない。マーレ軍が決めるんだから」
ミカサ「兵士になれるかどうか判断するのはエレンじゃないから…」と重なっている
4巻16話「必要」
小ネタ・擬音
ムトンボ君
マーレ戦士候補生試験の作文パートの教室の左奥にいる人物
おそらくムトンボ君がモデルと考えられる
レベリオへ帰ってきた戦士たち
ガビたちの故郷はレベリオの街の中にあるエルディア人の収容区でした。
戦士たちが街に戻ってきて隊列をなして歩いている時、街の人々が冷たい視線で彼らを見ていたのはそういうことだったのです。
グリシャの記憶でも描かれていた、「壁の中」ということになります。
負傷兵の中に怪しい人物
再会を喜ぶ家族達の陰で、負傷兵たちが病院へ向かっていきます。この中に、怪しい人物が1人。
腕章が逆の彼です。
腕章が逆ということはマーレ軍のルールをよく知らないのでは?ということ。スパイかもしれません。
しかし、左足のヒザ下を失っているから思うように身体が動かせなかった?
このマンガで結構な分量を割いて描かれているわけですから、何かしら意味があるはずです。
ファルコの平和を願う気持ち
ファルコはエルディア人を戦争から開放したいと考えています。そもそも戦争なんかやめたい、平和を願っているのでしょう。
戦場では敵国の負傷兵の手当を率先してやりますし、レベリオでも負傷兵を助けてながら「もう戦わなくてもいいんです」とまで言っています。戦士候補生であるのは家族のため、鎧の巨人を継承したいのも、あくまでもガビを守るためですし。
ファルコはライナーが自分と同じことを考えていると期待し、ライナーもまたファルコの気持ちに感づいているようです。
マーレの帝国主義、エレンの「戦わなければ勝てない」、とは別の考え方を持っているファルコの動向が気になります。
マーレの戦士たちは家族と再会
戦士たちの家族との再会。
パラディ島では狂った殺人鬼のようだったジークも祖父母と触れ合う姿は多少穏やかに見えてくるから不思議です。
ガビとライナーはいとこ同士なのですが、あまり似ていませんね。ライナー母カリナとガビ父は鼻の形を似せているように見えます。ガビは母似なのでしょう。
このマンガのキャラは母似、というかあまり父を感じさせないパターンが多い気がします。エレン、ミカサ、コニー…。父似はジークぐらいでしょうか。
ガビとカリナのパラディ島エルディア人への認識
ライナー一族の晩餐ではガビの武勇伝で盛り上がります。この一家は皆一様にマーレのプロパガンダを真に受けているようです。
特にライナーの母カリナは饒舌です。自分たちを捨てて島へ逃げたエルディア人は悪魔であり残虐極まりない存在であり、いつまた攻めてくるかわからない。しかし自分たち大陸のエルディア人は生涯を捧げて凄惨な歴史を償う善良な存在。そんな自分たちが島の悪魔に制裁を与えることで初めて世界に認められるのだ、とまくしたてます。
ライナーが見てきたパラディ島の現実
ライナーはパラディ島潜入時代の話を催促されて、あそこには色んな奴らがいて(仲間との楽しい思い出が流れる)、そこにいた日々は地獄だったと語ります。
それは地獄だったでしょう。悪魔だと思っていた彼らは自分と同じ普通のバカでしょうもない人間であり、そんな彼らを騙し続け、皆殺しにしなければならなかったわけですから。
何を言っているの?という顔をするガビ。ライナーの様子がおかしいことに気づく母カリナ。
ライナーも本当のことを言うわけにはいかず、複雑な表情を浮かべます。
これから殺し合う相手のことを必要以上に知るのは色んな意味でリスクが大きい。ライナー本人がそれを自覚しているでしょう。ガビには本当のことを知ってほしいとは思っていてもなかなか決心がつかない。そんな感じではないでしょうか。
ライナーが見てきたパラディ島は、島の悪魔の存在を信じてこれまで生きてた母の価値観を根底から覆し、精神の安定を脅かすかもしれません。パラディ側に与する考えを持つ人間がマーレ国内で穏やかに暮らせるはずもないので、とにかく下手なことは口にできないのです。
ライナーの過去
マーレ人とエルディア人のハーフ
ライナーはエルディア人とマーレ人のハーフであることがわかりました。母がエルディア人、父がマーレ人です。
マーレ国内では、マーレ人とエルディア人のハーフは固く禁じられており、見つかった場合はおそらく親子処刑となるでしょう。
母はライナーに父がマーレ人であること、自分たちが悪魔の血を引くエルディア人だから父と一緒にいられないのだと説明し、「マーレ人に生まれていれば…」と涙をこぼします。
そのため、ライナーは母子家庭で育ち、母と共に名誉マーレ人の称号を得るために戦士を志したのです。
戦士候補生時代は落ちこぼれ
戦士候補生時代のライナーは落ちこぼれでした。
走ってはマルセルに負け、射的ではベルトルトに負け、対人格闘ではアニにボコボコにされ、秀でるものがありません。成績は最下位だったようです。
候補生7人に対して巨人は6体。誰か1人が落ちる状況です。
彼が唯一評価されたのは作文試験で綴った「マーレへの忠誠心」でした。ガビが塹壕で同期に語っていた「覚悟」というやつです。
ポルコから隊長へ媚びを売っているとバカにされたときも、例の「島の悪魔」論を展開し激昂。今のガビそのものです。
しかし、「島の恨み節くらい誰だって言える」という至極真っ当なツッコミが入ります。マーレの洗脳教育を受けたエルディア人だとしても、誰しもがライナー一家のような極端な歴史観・民族観を持っている訳ではないのでしょう。
この頃からすでにポルコとライナーは馬が合わなかったようです。少し年上のリーダー的役割?のジークはやはりちょっとクールで飄々としています。
ライナーのことを気にかけてくれるのはマルセルとベルトルト。話を振られても聞いておらず他人には関心がなさそうなアニ(虫を踏み潰している?)。
「マーレ人になって家族と一緒に暮らすためにもなんとしても戦士になりたい」とベルトルトに打ち明けますが、父のことはきっちり隠す健気なライナー。
マーレとパラディ島2つの壁
ベルトルトが「そんな目標があるのに…13年しか…無いんだよ?」と問うと、ライナーは「13年で英雄になるんだろ?」と返答。
ライナーが訓練中に走りながら収容区の壁を見上げているとき、もう1人の「壁の中の少年」エレンは「何か起きねえかなぁ…」と呑気な様子です。
結ばれてはいけない両親の元に生まれ、たとえ寿命が13年に縮んでも英雄になって家族と暮らすことを夢見るライナー。
両親に愛されて育ち、何も起きない人生が退屈で壁の外に自由を求め始めるエレン。
エレンの場合はこの後大きく状況は変わってしまいますが、この時点では2人の切実さにかなり差があったのですね。
名誉マーレ人とはいったい何なのか
名誉マーレ人とはいったい何なのでしょう。
巨人を継承した者は名誉マーレ人になれるはずなのですが、ライナーもジークも家族含めてみんな収容区の中で質素に暮らしているようです。
彼らでさえこうなのだから、一般のエルディア人はもっと辛い日常を送っているのかもしれません。
単行本、別冊マガジン掲載時の情報
タイトル | 第94話「壁の中の少年」The Boy Inside the Walls |
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公開 | 別冊少年マガジン:2017年7月号 発売日:2017年6月9日(金) |
コミックス | 発売日:2017年8月9日(水) |
サブタイトル「壁の中の少年」の意味
レベリオ収容区の壁の中のライナー達&パラディ島の壁の中のエレン達。